渇いた夜には酒と男と処方箋 〜目立たない事務員サキの、秘密のSNS恋愛相談室〜

月曜日の朝、私はいつものベージュのカーディガンを着て、いつものブラックコーヒーを飲んでいた。

土曜日の夜に知らない男と過ごしたことも、日曜日に三万人のフォロワーへ辛辣な恋愛論を発信したことも、会社の誰も知らない。

「篠原さん、この資料の数字、確認してもらえますか」

「はい、わかりました」

声のトーンまで、いつもと同じ。

会社という場所は便利だ。誰もが他人のことを知っているような顔をして、実際には誰のことも知らない。

昼休み、スマートフォンを開くと、恋愛相談アカウントに新しいメッセージが届いていた。

『サキさん、彼は本当に優しい人なんです。でも、将来の話をすると話題を変えられます。私から結婚の話をするのは重いでしょうか。付き合って一年半です。彼は三十四歳、私は二十九歳です』

私はサンドイッチの包みを閉じた。

優しい人。

恋愛相談で、この言葉ほど厄介なものはない。

優しいという評価は、必ずしも相手が自分を大切にしている証拠ではない。怒鳴らない。暴力を振るわない。会えば笑ってくれる。そうした最低限のことまで、女性は恋愛市場で特別な価値として数え始める。

もちろん、優しさは大切だ。

ただし、優しさと誠実さは別の能力である。

私は返信欄を開いた。

『結婚の話をすることは、重くありません。あなたの人生に関わる話ですから、確認する権利があります。

ただし、彼が何と答えるかよりも、答え方を見てください。

すぐに結論が出ないことと、結論を出す気がないことは違います。

あなたが不安を口にしたとき、彼は一緒に考えてくれますか。それとも、あなたが黙るまで困った顔をしますか。

一年半付き合っているのなら、そろそろ彼の気持ちを当てるゲームを終わりにしましょう。

あなたが欲しいのは、彼の機嫌ではなく、二人の将来のはずです』

送信してから、私は画面を伏せた。

自分の言葉は、いつも他人に向けているときのほうが正しい。

自分に向けた瞬間、途端に使い物にならなくなる。