渇いた夜には酒と男と処方箋 〜目立たない事務員サキの、秘密のSNS恋愛相談室〜

二杯目を飲み終えたころ、男がふいに言った。

「ところで、恋愛相談って信じます?」

私はグラスを持つ手を止めた。

「急に何ですか」

「SNSでよく見るんですよ。やたら厳しいことを言う女性のアカウント」

背中に冷たいものが走った。

「そういうの、好きなんですか」

「好きというか、気になるんです。妙に本質を突いているというか」

男はスマートフォンを取り出した。

「この人、知っています?」

画面に表示されていたのは、私のアカウントだった。

『サキ|恋愛と人間関係ノート』

喉が乾いた。

男は私の反応に気づかず、画面をスクロールした。

「この人、結構すごいことを言うんですよ。体だけの関係から本命になれるか、みたいな相談に、ほぼ無理だって」

私は笑うべきか、驚くべきか、わからなかった。

「……きついですね」

「でも、嘘はついていないと思うんです。都合のいい関係って、片方が我慢して成立していることが多いでしょう」

私は男の顔を見た。

この人は、何を知っているのだろう。

私のアカウントを知っているだけなのか。それとも、文章のどこかに私自身を感じ取ったのか。

「あなたは、どう思います?」

男が尋ねた。

「何がですか」

「体だけの関係から、本命になること」

私は一口、酒を飲んだ。

「人によるんじゃないですか」

「意外と優しい答えですね」

「現実は、そんなに単純じゃないので」

男はうなずいた。

「そうですよね。だから僕、この人の言葉が好きなんです。厳しいけど、ちゃんと現実を見ている感じがして」

私は笑った。

口元だけで。

「その人に相談したことがあるんですか」

「いや。読むだけです」

男はスマートフォンをしまった。

「自分のことを相談したら、きっとひどいことを言われそうですから」

私は何も答えなかった。

ひどいことを言われるとわかっているなら、なぜ人は同じことを繰り返すのだろう。

答えは簡単だ。

正しいことを知るのと、正しいことを選べるのは別だからだ。