定時を告げるチャイムと同時に、私はパソコンの電源を落とした。
「篠原さん、お疲れ様。今夜軽く一杯どう?」
「すみません、今日はちょっと用事があって……」
申し訳なさそうに視線を落とし、小さく頭を下げる。
ベージュのカーディガンに無難なスラックス、控えめなメイク。都内の中堅建材メーカーで働く二十六歳の事務員・篠原サキの印象は、社内の誰もが「真面目でおとなしい人」で一致しているはずだ。
けれど、今夜の私は真っ直ぐ家には帰らない。
仕事の疲れか、それとも一人暮らしの部屋の静けさに耐えられないのか。月に何度か、人肌の温もりがないと息苦しくなる夜がある。
私はオフィスの服のまま、新宿の薄暗いオーセンティックバーのカウンターの隅に座る。派手なメイクも着替えもしない。ただ、ジントニックのグラスを見つめて静かに息を潜めている。
それでも、声はかかるのだ。
「隣、いいですか」
三十代半ばの、仕立てのいいスーツを着た男。
世の中には、派手で自己主張の強い女よりも、こういう「おとなしくて、余計な詮索をしてこなさそうな地味な女」を一晩の相手に求める男たちが一定数いる。面倒な後腐れがないと踏んでいるのだ。
私は伏せていた目を少しだけ上げ、小さく頷いた。その身勝手な計算を、私も同じように利用しているだけだった。
「篠原さん、お疲れ様。今夜軽く一杯どう?」
「すみません、今日はちょっと用事があって……」
申し訳なさそうに視線を落とし、小さく頭を下げる。
ベージュのカーディガンに無難なスラックス、控えめなメイク。都内の中堅建材メーカーで働く二十六歳の事務員・篠原サキの印象は、社内の誰もが「真面目でおとなしい人」で一致しているはずだ。
けれど、今夜の私は真っ直ぐ家には帰らない。
仕事の疲れか、それとも一人暮らしの部屋の静けさに耐えられないのか。月に何度か、人肌の温もりがないと息苦しくなる夜がある。
私はオフィスの服のまま、新宿の薄暗いオーセンティックバーのカウンターの隅に座る。派手なメイクも着替えもしない。ただ、ジントニックのグラスを見つめて静かに息を潜めている。
それでも、声はかかるのだ。
「隣、いいですか」
三十代半ばの、仕立てのいいスーツを着た男。
世の中には、派手で自己主張の強い女よりも、こういう「おとなしくて、余計な詮索をしてこなさそうな地味な女」を一晩の相手に求める男たちが一定数いる。面倒な後腐れがないと踏んでいるのだ。
私は伏せていた目を少しだけ上げ、小さく頷いた。その身勝手な計算を、私も同じように利用しているだけだった。


