学校の近くにある公園に着くまで、お互い何も喋らなかった。
もっと話したいと思っていたのに、いざとなると何を話せばいいのかわからない。
望月さんは、何か言いたいことがあるから私を待っていたんだろう。
もしかして、メイクのことを言わないで、とかかな。
だけど望月さんが口にしたのは、私の想像とは反対の言葉だった。
公園には誰もいなかった。ブランコと滑り台とシーソー。遊具が三つだけの小さな公園だった。
ベンチに並んで座って、望月さんが口を開いた。
「あの……言ってもいいから」
「えっ?」
「昨日はびっくりして慌てて帰っちゃってごめんなさい。でも、別に隠したいわけじゃないの」
望月さんは困ったように言う。
クラスメイトに質問責めにされたとき、望月さんがよくそんな表情を浮かべながら答えているのをよく見かける。
「……でも、望月さんは、言ってほしくないんだよね?」
そう言うと、望月さんは驚いたように私の顔をじっと見つめて、こくりとうなずいた。
「自分のことを話すのが苦手なの。それで、メイク何使ってるのって聞かれて、とっさに何も使ってないって言っちゃって」
私はそれを聞いて、ぽかんとしてしまった。
可愛いって得なことだと思っていた。
何もしなくてもみんなに注目されて、羨望の眼差しを浴びて。
注目されたことなんてなかったから、そういう人の気持ちを考えたことなんてなかった。
でも、もしかしたら得なことばかりでもないんじゃないだろうか。
“メイクをしてない”
ただそれだけのことが、自分の知らない人たちにまであっという間に広まってしまうのだから。
「私、石井さんに憧れてた」
「ええっ、なんで?」
望月さんの言葉に、私は耳を疑った。
望月さんが、私に憧れてる?
みんなに憧れられている望月さんから憧れられるようなこと、何ひとつないと思うんだけど。
「自分をしっかり持っててすごいなって。好きなことは全力でやるし、嫌なことは嫌ってはっきり言うでしょ」
言われてみれば、そうかもしれない。誰の視線も気にせず体育ではクラスの誰よりも汗だくになるし、メイクは好きじゃないからしないと言う。
だって、私の行動や言葉なんて、みんなたいして気にしていないってわかるから。ちょっとおもしろいことを言って笑ったり笑われたりしても、次の日にはすっかり忘れられている。その程度の存在だから。
ーー望月さんは、私とは違うんだ。
一挙一動が、嫌でも目立ってしまう。話すのが苦手で黙っていても、話した言葉はあっという間に広まってしまう。
望月さんがそのことをどう思っているかなんて、考えたこともなかった。
可愛い子が注目されるのは、当たり前のことだと思っていた。
でも、望月さんが注目されることを望んでいなかったら……?
それって、もしかしたらすごく窮屈なことなのかもしれない。
「私はね、メイクが苦手なんだ」
そう言うと、望月さんはくすっと小さく笑った。
「聞いてたから知ってる」
「望月さんが話してくれたから、私も苦手なことを話そうと思って」
「そっか」
私は驚いて望月さんの顔をまじまじと見てしまった。
ーー望月さんって、こんなふうに笑うんだ。
大きな目を細めて、口の端が上がって、すごく可愛い。
こんな笑顔を見てしまったら、ますますファンが増えちゃうんじゃないかな。
「なんで苦手なのか、聞いてもいい?」
「……なんか、恥ずかしくて」
私は照れ隠しでえへへと笑いながら言った。
「恥ずかしい?」
望月さんがキョトンと首を傾げた。
「うん。地味顔のくせに無理してるって言われそうで」
そんなこと、と言いかけて、何か思いついたみたいに顔をしかめた。
「……もしかして、誰かにそう言われたの?」
ドキリとした。図星だったから。
「うん。じつはーー」


