なんだったんだろう、さっきの。
いつも落ち着いている望月さんがあんなに動揺するところを初めて見た。
もしかして私、見てはいけないものを見てしまったんだろうか。
明日、聞いてみようかな。でも、やっぱり迷惑そうな顔をされてしまう気がするから、この話題には触れないほうがいいかもしれない。
家に帰るなり、さっそくマンガを取り出した。ビニールカバーをはがして表紙をめくると、たちまちその世界の中に吸い込まれていく。
そのマンガは、団地で暮らす人たちの生活を描いた日常系の物語だ。
団地のまわりには公園や学校や幼稚園やコンビニがあって、一つ一つの扉の奥にはそれぞれ違った生活がある。
みんなで遊ぶのが好きな子もいれば、一人が好きな人もいる。
団地で暮らす人たちの生活を、のんびりと暖かい絵で描いたそのマンガが大好きだった。
一軒家に住んでいる私には、ひとつの大きな建物の中に何百人もの人が住んでいるその場所は、未知の世界を覗き込んでいるみたいでおもしろかった。
マンガを読み終えて、ふと、望月さんのことを思い出す。
望月さんの家は、あの駅の近くなんだろうか。それとも、近くで予定があったんだろうか。
自分のことを進んで話さない望月さんのプライベートを、ほんの少しだけ知ってしまった。
天然美少女と言われている望月さんがじつはメイクをしていて、それをなぜか隠していることも。
望月さんって、どんな子なんだろう。
何が好きなんだろう。
もっと話してみたいな、とそのとき、初めて思った。


