メイク・コンプレックス


 まだ五月だというのに、汗ばむような暑さが増えてきた。蒸し暑さに加えて、体育の授業なんかは頭からつま先まで汗だくになる。体育館は冷房がついているけれど、天井が高いせいでちっとも効いている感じがしない。

 でも、今日の授業は私の好きなバレーだから、ゲームが始まってしまえばそれほど気にならなかった。運動はあまり得意じゃないけれど、バレーはマンガがきっかけでハマり、テレビで試合を観ているうちに自分でやるのも好きになった。

 こちらの得点でゲームは終了。同じチームの子とやったね、と言い合う。ただの授業とはいえ、やっぱり勝つと嬉しいものだ。壁際に置いていたタオルを手に取って顔を拭ったとき、ぷっと笑い声が聞こえた。

「ちょっと小春、汗やばいって。真剣にやりすぎ!」

 クラスメイトの女子が汗だくの私を見て笑う。

「あはは、つい夢中になっちゃって」

「小春はすっぴんだからいいよねー。あたしそんな汗かいたら顔ドロドロになるわ」

 そう言う彼女の顔は、授業が始まる前と変わらずバッチリメイクが施されている。首筋にうっすら汗を滲ませながら、手鏡で崩れていないかチェックしている。

私はいつものようにあははと笑って流してから、がっくりとうなだれた。

 ーーああ、また女子力低い認定されてしまった。

 女子力の高さで言えば、私は限りなく低いのだろう。だけど面と向かって笑われるとグサリと心に刺さる。

 好きなことにはつい夢中になってしまう。クラスの女子の半分以上は手を抜いているのがわかっているけれど、だからといって自分まで手を抜くのはなんとなく嫌なのだ。
そういうところが真面目すぎる、と言われる所以なのだろうけれど。

「真面目にやってるのに笑うことないじゃんね」

 とそばで見ていた沙保は頬を膨らませている。

「でも、たしかに汗かきすぎだよね、私」

 と私は気にしていないふりをして笑った。

「あ、次望月さんのチームだ」

 沙保の声につられて隣のコートを見た。

 私がボールを返したって何の反応も起こらないけれど、望月さんがボールに触れると一気にクラスメイトの視線が集中するのがわかる。

 飛んできたボールを両手で受けて跳ね返す望月さんは、いつも通り涼しげだった。
 長い髪を後ろでひとつにまとめ、むき出しになった首筋には汗の一粒も見えない。

「この暑さで汗かかないってどうなってんの。ほんとに同じ人間?」

 心の声がうっかり漏れたようなつぶやきに、私は思わずそうかも、とうなずきそうになった。

 勉強も運動も、なんでもそつなくこなす望月さん。表情がほとんど変わらないから、何を考えているのかよくわからない。
「近寄りがたい」とみんなが言うのもわかる。
 自分たちとは違うと思ってしまうのだ。

 少なくとも、全身汗だくになって動き回っている私とは髪の毛の先まで違う成分でできていることはたしかだった。