メイク・コンプレックス


 私はメイクが苦手だ。

 それに気づいたのは、中二の頃だった。

 春休みに沙保を含めた友達四人組でお泊まり会をしたことがあった。

『ねえ、これみんなでやろうよ』

 そう言って一人が取り出したのは、フェイスパックだった。

 フェイスパックがどんなものかは知っていた。薬局に行けばたくさん売っているし、お母さんがたまにやっているのも見だことがあった。
でも、そういうのは大人がするものだと思っていたから、私は戸惑ってしまった。

 四人分用意されていたシートを、一人ずつ顔に貼っていく。

『つめたーい』

『ぷにぷにしてるー』

『気持ちいいっ!』

『う、うーん……?』

 気持ちいい、のかな。私一人だけが微妙な反応だった。
 なんだかぬめっとして、顔に何か変なものが乗っている気がして、落ち着かない。というか、ちょっと気持ち悪い。

 十分経ってパックをはがすと、みんなツヤツヤ、モチモチ! と自分の肌をペタペタ触って感動していたけれど、私はそれよりもぬめっとした感触がいつまでも残っていることのほうが気になってしまった。

 翌朝、みんなで顔を洗って服を着替えると、三人ともポーチを取り出して、メイクを始めた。
 小春もしてあげる、と言われて、私は目をつむってされるがままにじっとしていた。

 顔中に何かクリームみたいなものが塗り重ねられていく。
眉、まつ毛、頬、唇。まるで自分の顔がキャンバスになって油絵の具を塗りたくられている気分だった。

 目を開けて、鏡に映った自分の顔は、自分の顔じゃないみたいだった。

 ーー私、メイク、あんまり好きじゃないかもしれない。

 せっかくメイクしてくれた友達にはそんなこと言えなかったけれど、そのとき、初めて自覚した。

 私は、顔に何かを塗ったりつけたりするのが苦手なのだと。

 それに、嫌なことを思い出してしまうから。


 お泊まり会を終えて家に帰ると、お母さんがいつもと違う私の顔を見て目を丸くしていた。

 いいじゃないの、可愛い、と褒めてくれたけれど、私は恥ずかしくて、友達に言われて、と必死に言い訳をしていた。