メイク・コンプレックス


 三十分間のマッサージが終わり、私は目を覚ました。

「どうだった?」

「すっごい気持ちよかったです!」

「よかった。気持ちよさそうに寝てたもんね」

 私は少し恥ずかしくなって、えへへと笑った。

 着替えを済ませて部屋を出た。向かいにある鏡台の前に座ってと言われて、椅子に腰を下ろした。

 大きな鏡に映る自分の顔は、気のせいだろうか、来たときより少しスッキリとしているように見える。

「いまは毛穴が開いてる状態だから、乾燥しないように化粧品を塗っておくね」

 絢さんがコットンに化粧水を染み込ませて、ぽんぽんと優しくはたいていく。

 ひんやりと冷たい感覚が、洗いたての肌に染み込んでいく。不思議と何かを塗っている感じが全然しなかった。

 苦手だからとずっと避けていたけれど、

 ーーそっか。こういうふうにすれば気にならないかも。

 また一つ、新しいことを教えてもらった気がした。

「まだ日が出てるし、よかったら日焼け止めも塗ってく?」

「あ……」

 絢さんが差し出した日焼け止めのチューブを見て、戸惑ってしまう。

 化粧水はほとんど水みたいだからよかったけれど、日焼け止めはクリームだ。

 前に友達にメイクをしてもらったときの、クリームを顔に塗りたくる感覚を思い出してためらってしまった。

 私の戸惑いを素早く察してくれた絢さんが、

「やめとこうか」

 と日焼け止めを引き出しにしまった。

「ごめんなさい……」

 日焼け止めはメイクじゃない。顔に何かを塗るなんて、簡単なことだ。怖がるようなことじゃない。
 それなのに、こんな簡単なこともできない自分が嫌になる。

『気持ち悪い』

 あんなの、もう、なんてことないのに。
 全然、気にしてないのに……。