お姉さんのお店は、白いキューブみたいな、シンプルな外観の一軒家だった。
ガラス扉を押し開けて中に入ると、ハーブのような爽やかな香りがふわりと広がった。
「いらっしゃー……ってうわっ、どうしたのその顔?」
エプロンをつけたお姉さんが、奥から出てくるなり私たちの顔を見てギョッと目を見開いた。
「えへへ、ちょっとね」
美波が鼻声で恥ずかしそうに笑う。
お姉さんは呆れたように息をついて、美波の背中をぽんと軽く押した。
「とりあえずあんたは、あっちでメイク直してきなさい」
「はーい」
なんとなく、美波が甘えているのがわかる。
一人っ子の私には、頼れるお姉さんがいるってちょっと羨ましい。
「ええと、美波のお友達の小春ちゃん、だよね?」
「はい、よろしくお願いします」
私もやっぱり鼻声で答える。
「私は美波の姉で、ここのオーナーをしている絢っていいます。今日はリラックスしていってね」
ふんわりと緩く巻かれた焦茶色の髪に、くっきりとした目元。美波より気が強そうな感じがするけれど、姉妹なだけあってやっぱりよく似ていた。
簡単なアンケートに答えた後、個室に案内された。部屋の真ん中に一人用のベッドがあって、横に大きな機械が置かれている。
「これに着替えて、ベッドに横になってね」
「は、はい」
タオル生地の巻きタオルのようなものを渡して、絢さんが部屋を出ていった。
タオルはチューブトップで胸の前でボタンを留めるタイプだ。肩がむき出しになっていてスースーする。
ベッドに横になり、緊張しながら待っていると、絢さんが戻ってきた。
「じゃあ始めますね。肩の力抜いていいからね」
私はこくりとうなずく。
絢さんが機械のスイッチを入れると、温かいスチームのようなものが出てきた。柔らかい香りに包まれて、自然と肩の力が抜けていくのを感じる。
「まずは洗顔からするね」
絢さんがコットンで私の顔を丁寧に拭いていく。ひんやりしていて気持ちいい。ふわふわの泡が乗せられて、優しく撫でるように転がす。
顔を洗うのがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
「美波からいつも小春ちゃんの話聞いてるよ。友達ができた、ってすごく嬉しそうだった」
「えっ、そんな、私のほうこそ仲良くしてもらってるので」
改めて言われると、なんだか照れてしまう。
「あの子、昔から人付き合いが苦手だったから。友達を紹介されたのも初めてなのよ」
「そうなんですか」
私は話しかけやすいのか、人気者になったことはないけれど、友達を作るのに苦労したことはなかった。気づけばいつも気の合う友達が近くにいた。
でも、美波は違うのだ。見た目がいいから注目されるけれど、話すのが苦手で黙っていると、とっつきにくいとみんな離れていってしまう。自分を知ってもらうことって、簡単なようで、じつはすごく難しいことなのかもしれない。
「でも、前に美波の友達だっていう子が突然何人も来たことがあってね。美波の紹介だっていうけど、美波に聞いたらしてないって言うの。予約が入ってたし、紹介じゃないとできないって断ったら怒って帰っちゃって。あのときは困ったわ」
「そんな勝手な……」
勝手に押しかけておいて、断られたら怒るなんて。
呆気にとられていると、絢さんがくすりと笑った。
「だから、自分からここに連れてきたのは小春ちゃんが初めて。あの子にとって大切な友達なのね」
絢さんの手が優しく私の顔を包み込む。固くなっていたものがゆっくりと柔らかくほぐされていくのを感じる。
あまりの心地よさにすうっと意識が遠のいていって、気づけばぐっすりと眠り込んでいた。


