メイク・コンプレックス


 帰りに連絡先を交換して、それから毎日のようにメッセージのやりとりをするようになった。

 学校のこととか、好きなマンガや小説のこととか。
 望月さんは叔母さんがやっている喫茶店でバイトをしているらしい。駅のトイレでメイクをしていたのは、バイト前のメイク直しだったとか。
 行ってみたいと言うと、まだ始めたばかりで緊張しっぱなしだから恥ずかしいと断られてしまった。
 ガチガチに緊張しながらも、学校でそうしているようにつんとすました顔で接客している様子が目に浮かんで、思わず一人で笑ってしまった。

 いくら話しても話題は尽きなかった。
 そのうち小春、美波、とお互い名前で呼び合うようになって、さらに距離が縮まったように思う。

 相変わらず学校では話しかけづらいオーラを放っている美波だけど、それは話しかけられるのが嫌なわけじゃなく、人見知りなだけだとわかってきた。

 教室ではあえて私から話しかけるようなことはしなかったけれど、ある日、美波のほうから話しかけてくれた。

「小春、数学でわからないところがあるんだけど、教えてくれる? 次当たるんだ」

「あ、うん。えっとねーー」

 何の接点もなかったはずの私たちが突然話し始めて、しかも名前で呼んでいる。
 クラスメイトが驚いて私たちを見ているのがわかった。

「あ、なるほどね。ありがとう」

 美波は笑顔でそう言って、何ごともなく自分の席に戻ろうとしたけれど、そうはさせてもらえなかった。

 ぽかんとして様子を見ていたクラスメイトたちに、一気に取り囲まれてしまった。

「えっ、いつの間に二人仲良くなったの?」

「あたしも美波って呼んでいい?」

「俺も! あ、数学苦手なの? 教えようか?」

 便乗して遠巻きに見ていた男子たちまで食い気味に詰め寄ってくる。

「えっと……」

 質問責めにされて、美波はやっぱり困り顔を浮かべている。

 弱みを見せ合ったから、と動物的習性を説明するわけにもいかず、私は苦笑を浮かべる。

 これは、打ち解けるにはまだ時間がかかりそうだ。