それは、三年前の、とっくに封印したはずの嫌な記憶だった。
でも、本当は全然封印なんてできていないって、わかってた。
『気持ち悪い』
そう言ったほうは、もうとっくに忘れているだろう。
でもその言葉は、私の中にこんなにもはっきりと残っている。
中学のとき、クラスのみんなでカラオケに行ったことがあった。
私は持っている服の中で一番可愛い服を着て、張り切ってメイクをして出かけた。
好きな人がいたから。
同じクラスだった、前原くんという男の子だ。話しやすくて、なんでも言い合える男友達だった。
告白する勇気なんてなかったけれど、少しでも振り向いてほしくて、気づいてほしくて、頑張ってオシャレをした。
でも前原くんは、待ち合わせ場所に来た私を見るなり、ぼそっとつぶやいたのだ。
気持ち悪い、と。
誰にも聞こえないくらい、小さな声だった。
でも、私にはしっかりと聞こえた。
それはたしかに私に向けられた言葉だった。
ショックで呆然として、何も言い返せなかった。
誰よりも可愛いと言ってほしかった相手に「気持ち悪い」と言われてしまった。
ほかにもっと派手なメイクをしている子だっているのに。その子たちに比べれば、私は控えめなほうだったのに。どうして私だけ。
その答えはすぐに見つかった。
ーーああ、そっか。私が地味だからだ。
冴えない顔のくせに無理しててイタいって思われたんだ。
私が頑張るのは、気持ち悪いんだ。
泣きそうになるのを必死に堪えた。それからお腹痛いから帰ると嘘をついて、逃げるように帰った。
ーー楽しみだったのに。ただ振り向いてほしかっただけなのに。
完全に空回りだ。早起きして鏡の前で悩んでいたのがバカみたいだ。
近くの公園のトイレに駆け込んで、ボロボロと泣いた。一時間かけたメイクは一瞬でぐちゃぐちゃになって、手で拭うと真っ黒になって、それを見たら余計に惨めな気持ちがあふれてきた。
そのことは友達にも誰にも言わなかった。
言えなかった。恥ずかしいことだったから。
記憶の奥底に封印して、早く忘れてしまいたかった。
お小遣いで集めたメイク道具も、クローゼットの奥にしまい込んだきりずっと触っていない。
前原くんとはそれ以来ぱったりと話さなくなり、気持ちは自然と消えてしまった。
気持ち悪いと言われてまで好きでい続けられるほど、私は強くなかった。
別々の高校に進学し、もう思い出すこともなくなっていた。
気持ちは消えたはずなのに、あの言葉はまだ私の中に残っている。
こんなにも重く、ずっしりとのしかかってくる。


