それから、1週間後、
「空気が読めない管理栄養士」潮見七海は相変わらず周囲を困惑させていた。
「潮見さん!いつまでソレ磨いてるの!チョットこっち、手伝って!」と叫んでいる高島。
七海は、「はい、わかりました」と、お得意の気のない返事を返し、厨房でこの前使った大きな保温容器を無心に磨き続けていた。
高島の諦めのため息が聞こえる。
その時、内線の電子音が鳴った。
「潮見さん!内線!!出て!!」と高島がまた叫んでいる。
「しょうがない」とばかりに保温容器を棚へ戻し七海は内線に出た。
「はい、栄養科、潮見です」
「お疲れ様です。特科、相生です」
桜の体調は順調に回復している事が、その声の様子で七海に伝わった。
「あっ、お疲れ様です」
「潮見さん、この前は本当にありがとう。この後、少し時間もらえないかな?申し訳ないんだけど・・・できれば今、特科へ来てもらえない?」
「えっ今ですか?」
七海は一瞬、間を空けて
「わかりました今、伺います」
と伝え内線を切った。
いかにもこの先の予定を確認しましが大丈夫みたいですという演出が小賢しい。
高島へ行先を伝え、「何か美味しいものでもご馳走してくれるのだろうか?」そんなことを考えながら七海は地下にある栄養特科へ向かった。
その前日、
栄養特科では・・・
「私は反対です。あんな空気の読めない人間に私たちの業務が務まるとは到底思えません!」桜の右腕、栄養特科管理栄養士の石山 緑は桜へ詰め寄っていた。
七海のことで揉めている。
桜が七海を栄養特科へ引き抜きたいと石山へ告げたのだ。
桜は七海の思いもよらない一面を見せつけられ、その能力によって救われたのだから彼女を自分の部署へ引き抜きたいと考えるのも当然だろう。
しかし、石山からしてみれば、普段から空気が読めない不思議ちゃんである七海を引き抜こう!などという桜に対して「あんた、いったいどうしちゃったの?」となるのもまた当然である。
桜は石山だけに「海風公園」での出来事を打ち明け、何度も説得を続けているのだが、彼女は頑としてそんな話はにわかに信じられないの一点張りだった。
しかし、桜も絶対に引けない、どうしても七海を自分の元へ置きたかった。
そこで、このままではらちが明かないと
明日、七海をここへ呼んであの時七海はどのような根拠をもって桜がおかれていた状況を見極めたのか、それを二人で直接、七海から聞き取りを行い、その内容で判断しようということでお互い歩み寄ったらしい。
そんな事とは全く知らずに七海は、まだ「ご馳走にありつけるのでは?」などと考えながら栄養特科のドアをノックしていた。
「どうぞ」
桜の返事が聞こえる
「失礼します」
七海がドアを開けると
にこやかにこちらへ笑顔を向ける桜と
それとは対照的に、七海を頭の先からつま先まで鋭い目つきで観察する石山が立っていた。
七海は桜に促されテーブルを挟み桜と石山の向かい側へ着席する。
石山が醸し出す威圧的な空気を七海は全く読めないので彼女もまた「ご馳走にありつける?」と、桜と同様、にこやかな表情だ。
桜が切り出した。
「潮見さん、忙しいところ来てくれてありがとう」
「実はこの前「海風公園」であなたに詰め寄られた時・・・」
「あの時、潮見さん凄い迫力だったものだから あっさり、全てあなたの言う通りですって、なっちゃったでしょ」
「それで、あなたが私の異変にどうやって気付いてくれて、何を根拠に症状を見定めたのか、それをどうしても聴きたくて今日、来てもらったの」
「それ今、話してもらえるかな?」
七海はキョトンとした表情で
「えっ?」と、なって困惑している。
すかさず石山が意地悪な口調で七海に詰め寄った。
「特に根拠はないとか?」
「それとも当てずっぽうとか?」
七海は一瞬、石山へ視線を向けるが直ぐにうつ向き、そして噛み締めるように話し始めた。
「根拠もなにも、そんな事、皆んなもわかってるでしょ?」
「だって室長の胃の音、腸の音、呼吸の音とリズム、他の人とは全然違ってた。あんなの皆んなもおかしいって思いましたよね?」
「1分間に呼吸する回数が多すぎる。浅くて速い呼吸。自律神経が乱れて胃腸の動きが完全に止まっていると感じました」
「それにあの時、室長の指先。爪の根元が白くて表面に縦筋が入ってた」
「亜鉛も鉄も完全に欠乏しとるサインですよね」
「それで、悪いとは思ったんですけど、あの日カンンファレンスルームを出てから直ぐに、この部屋に入って確かめたんです。
あの時間は毎日、室長の検食が終了している時間です。
このテーブルの上にあった検食のお盆。
汁物の器の縁に、一口だけ跡があって、でも、具材は手つかずのまま表面が乾いて崩れていました。
室長はどんなに時間がなくたって、どんな事でもきちんと最後までやりきる人です。検食をいいかげんに終わらせるなんて考えられません。
一口すすった瞬間、味がしなくて吐き気がして、それ以上箸が進まなかったのだと思いました」
「この部屋へ勝手に入って確かめたのは、やりすぎたと思います。ごめんなさい!」
「でも、体や心が弱っている人の体の動きや音やリズムや色って誰でも、すぐ分かるじゃないですか?ただそれだけです。根拠なんて、そんなすごいものじゃないです」
桜と石山はキョトンとした視線を七海へ向け
「ふつう、それ、誰もわからないよ・・・」
と、なっている。
そしてこの後、二人が出した結論は・・・
「あいつ、ハンパねえ〜!」だった。
翌週、辞令が職員通路の掲示板へ貼り出された。
現 栄養科 管理栄養士 潮見 七海 栄養特科へ異動を命ずる
「空気が読めない管理栄養士」潮見七海は相変わらず周囲を困惑させていた。
「潮見さん!いつまでソレ磨いてるの!チョットこっち、手伝って!」と叫んでいる高島。
七海は、「はい、わかりました」と、お得意の気のない返事を返し、厨房でこの前使った大きな保温容器を無心に磨き続けていた。
高島の諦めのため息が聞こえる。
その時、内線の電子音が鳴った。
「潮見さん!内線!!出て!!」と高島がまた叫んでいる。
「しょうがない」とばかりに保温容器を棚へ戻し七海は内線に出た。
「はい、栄養科、潮見です」
「お疲れ様です。特科、相生です」
桜の体調は順調に回復している事が、その声の様子で七海に伝わった。
「あっ、お疲れ様です」
「潮見さん、この前は本当にありがとう。この後、少し時間もらえないかな?申し訳ないんだけど・・・できれば今、特科へ来てもらえない?」
「えっ今ですか?」
七海は一瞬、間を空けて
「わかりました今、伺います」
と伝え内線を切った。
いかにもこの先の予定を確認しましが大丈夫みたいですという演出が小賢しい。
高島へ行先を伝え、「何か美味しいものでもご馳走してくれるのだろうか?」そんなことを考えながら七海は地下にある栄養特科へ向かった。
その前日、
栄養特科では・・・
「私は反対です。あんな空気の読めない人間に私たちの業務が務まるとは到底思えません!」桜の右腕、栄養特科管理栄養士の石山 緑は桜へ詰め寄っていた。
七海のことで揉めている。
桜が七海を栄養特科へ引き抜きたいと石山へ告げたのだ。
桜は七海の思いもよらない一面を見せつけられ、その能力によって救われたのだから彼女を自分の部署へ引き抜きたいと考えるのも当然だろう。
しかし、石山からしてみれば、普段から空気が読めない不思議ちゃんである七海を引き抜こう!などという桜に対して「あんた、いったいどうしちゃったの?」となるのもまた当然である。
桜は石山だけに「海風公園」での出来事を打ち明け、何度も説得を続けているのだが、彼女は頑としてそんな話はにわかに信じられないの一点張りだった。
しかし、桜も絶対に引けない、どうしても七海を自分の元へ置きたかった。
そこで、このままではらちが明かないと
明日、七海をここへ呼んであの時七海はどのような根拠をもって桜がおかれていた状況を見極めたのか、それを二人で直接、七海から聞き取りを行い、その内容で判断しようということでお互い歩み寄ったらしい。
そんな事とは全く知らずに七海は、まだ「ご馳走にありつけるのでは?」などと考えながら栄養特科のドアをノックしていた。
「どうぞ」
桜の返事が聞こえる
「失礼します」
七海がドアを開けると
にこやかにこちらへ笑顔を向ける桜と
それとは対照的に、七海を頭の先からつま先まで鋭い目つきで観察する石山が立っていた。
七海は桜に促されテーブルを挟み桜と石山の向かい側へ着席する。
石山が醸し出す威圧的な空気を七海は全く読めないので彼女もまた「ご馳走にありつける?」と、桜と同様、にこやかな表情だ。
桜が切り出した。
「潮見さん、忙しいところ来てくれてありがとう」
「実はこの前「海風公園」であなたに詰め寄られた時・・・」
「あの時、潮見さん凄い迫力だったものだから あっさり、全てあなたの言う通りですって、なっちゃったでしょ」
「それで、あなたが私の異変にどうやって気付いてくれて、何を根拠に症状を見定めたのか、それをどうしても聴きたくて今日、来てもらったの」
「それ今、話してもらえるかな?」
七海はキョトンとした表情で
「えっ?」と、なって困惑している。
すかさず石山が意地悪な口調で七海に詰め寄った。
「特に根拠はないとか?」
「それとも当てずっぽうとか?」
七海は一瞬、石山へ視線を向けるが直ぐにうつ向き、そして噛み締めるように話し始めた。
「根拠もなにも、そんな事、皆んなもわかってるでしょ?」
「だって室長の胃の音、腸の音、呼吸の音とリズム、他の人とは全然違ってた。あんなの皆んなもおかしいって思いましたよね?」
「1分間に呼吸する回数が多すぎる。浅くて速い呼吸。自律神経が乱れて胃腸の動きが完全に止まっていると感じました」
「それにあの時、室長の指先。爪の根元が白くて表面に縦筋が入ってた」
「亜鉛も鉄も完全に欠乏しとるサインですよね」
「それで、悪いとは思ったんですけど、あの日カンンファレンスルームを出てから直ぐに、この部屋に入って確かめたんです。
あの時間は毎日、室長の検食が終了している時間です。
このテーブルの上にあった検食のお盆。
汁物の器の縁に、一口だけ跡があって、でも、具材は手つかずのまま表面が乾いて崩れていました。
室長はどんなに時間がなくたって、どんな事でもきちんと最後までやりきる人です。検食をいいかげんに終わらせるなんて考えられません。
一口すすった瞬間、味がしなくて吐き気がして、それ以上箸が進まなかったのだと思いました」
「この部屋へ勝手に入って確かめたのは、やりすぎたと思います。ごめんなさい!」
「でも、体や心が弱っている人の体の動きや音やリズムや色って誰でも、すぐ分かるじゃないですか?ただそれだけです。根拠なんて、そんなすごいものじゃないです」
桜と石山はキョトンとした視線を七海へ向け
「ふつう、それ、誰もわからないよ・・・」
と、なっている。
そしてこの後、二人が出した結論は・・・
「あいつ、ハンパねえ〜!」だった。
翌週、辞令が職員通路の掲示板へ貼り出された。
現 栄養科 管理栄養士 潮見 七海 栄養特科へ異動を命ずる
