坂の上のRD

2,相生(あいおい) 桜(さくら)

北海道、札幌にほど近い港町にある最大勾配24%の坂道はその昔、海岸沿いを埋め立てた道路が出来るまで、小さな漁師町を市街地と結ぶ唯一の道だった。
天辺には、かつて大きな小学校があり1000人もの子供たちが元気に通う活気に満ちあふれた坂道だったのだが、今から5年前、小学校は少子化が原因で惜しまれつつも150年以上の歴史に幕を閉じた。
その跡地へ2年前に設立したのが、この「かもめヶ丘病院」。
長期にわたる療養や医療的管理が必要な患者を受け入れる慢性期病院である。
まさに少子高齢化の象徴のような病院だ。

この「かもめヶ丘病院」では設立当初からある実験的な新部署の立ち上げが一人の異色な経歴を持つ管理栄養士を中心に進められていた。
その部署名は「栄養特科」
医学的指示を厳格に守る『療養食』
性質上、その味気なさに食への執着を失い衰弱していく長期入院患者は少なくない。そんな彼らの心の問題に寄り添い医学的なエネルギー計算や減塩指示を徹底的に守りつつ、巧みな心理分析により心の奥底に眠る食への執着、生きる執念に再び火を灯す事を使命とした日本初の専門チーム・・・
言わば、栄養と人間心理の精鋭集団である。
その理念は、
「食べてもらえて初めて栄養になる」だ。

既存の「栄養科」と新設の「栄養特科」、
理念を同じとするが、その役割は明確に区分されている。
「栄養科」は、この理念に基づき栄養学、調理技術を駆使して、患者に食べてもらえる食事を追求する。
これに対して、
「栄養特科」は、分野の境界線を越えた分析で、患者自らが食べようとする(生きようとする)心を追求する。

つまり・・・
「栄養特科」は、患者さんが食べようとするきっかけを見つけるのがお仕事という事だ。

この「栄養特科」を立ち上げから全てを一任されているのが相生(あいおい) 桜(さくら)。
彼女は過去にとある医療施設に管理栄養士として勤務していたが、たった1年で退職。
医学部学士編入を行い7年をかけて精神科専門医の資格を得るという異色の経歴を持っている。
彼女の強いこだわりで「かもめヶ丘病院」では医師としてではなく、あくまで管理栄養士として「栄養特科」を指揮しているのだが、この新設部署の設立は優秀な医師でもある桜(さくら)の熱心で地道な働きかけが上層部を動かし実現したものらしい。