2026年、夏 (現在)
今朝もまだ目覚め率60%の七海にこの坂の狂気は一切、手を緩める事はしない。
坂の天辺にある『かもめヶ丘病院』
そこが七海の職場。
七海は深くため息をつきながら足を進める。
その姿は、小顔でスレンダー、顔立ちも整った美形の「悩める乙女」と言いたいところなのだが・・・
首元がだらしなく伸びた茶色のTシャツに、ダブダブな黒いロングスカート、お気に入りのチョット高かった赤いスニーカーと、背中にはズッシリと垂れ下がった黒い巨大リュック(いったい何が入っているのか)、そして、まるでこの世の不幸を一身に背負っているかのような『どんより顔』は既に、この坂では朝の日常風景として溶け込んでおり、周囲からは「美形の無駄使い」と噂されている。
病院まであと、約20mといったタイミング、
突然後方で勾配24%に襲われ悲鳴をあげたかのようなエンジン音が響く、そしてそれは背後からどんどん迫って来た!次の瞬間
せめてTシャツだけでも・・・
と深く後悔した時にはもう遅かった。
屋根に不思議な形の大きなカメラを載せたストリートビュー撮影車が、無防備な七海の後から、横、そして前へと白煙を撒き散らしながらスローモーションのように駆け抜けていった。
七海を知る人間には顔のぼかし加工は全く無意味だった。
世界へ向けて公開された『かもめヶ丘病院』を背景にした無防備過ぎる彼女の背面から前面にかけての180度。
翌週には七海のいない時間と場所限定で彼女のあだ名はバージョンアップされていた。
今の時代、面と向かって人のことをあだ名で呼んでくる人間はめったにいない。しかし、ここには、時間も場所もそして人も選ばない自由な昭和生まれが一人だけいた。
「よう!グーグルゾンビちゃん!」
「腹減ってないか?プリンあげるよ ほら!」
七海が振り向くとベテラン調理師の政さん72歳がいつもの悪がきスマイルで彼女を見上げていた。
政さんは標準身長女子の七海から見てもかなり背が低い。シワさえなければ本物のわるガキだ。
「ありがとう!ごちそうさま・・」
「あッ、でも、政さんコレ、また病院の食材使ってないよね?」
「かたいこというなよグーグルゾンビちゃん!残り物をチョットだけダヨ」と、悪がきスマイルのギアを更に一段上げてみせてくる。
七海はいつかビシッと注意しなければと思ってはいるのだが、いつもこの悪がきスマイルと美味しい賄賂にすっかり丸めこまれてしまう。
「冷蔵庫に入れといてランチのデザートにでもしなよ!グーグルゾンビちゃん」
悪がきスマイルはトップギアに入っている。
「あ、ありがと」
彼女は今日もまたこの自由な老人を野放しにしてしまった。
「で、グーグルゾンビちゃん!また一発かましたんだって!やるね〜」
悪がきはニヤリと七海を見上げている・・・
ついに七海の眉間にシワが寄った。
「政さん、なんちゃらゾンビってしゃべりたいだけだべ!ソレもうやめてけれ!」
「全然おもしれくね〜ど!」
七海は坂のふもとの小さな漁師町で元漁師の祖父と元小学校教諭の祖母に育てられ、現在も3人で暮らしている。
訛りの強い祖父の影響なのか?七海は普段は標準語?なのだが興奮すると思いっきり訛る癖がある。
自分が今、訛っていたことに気付き一瞬、恥じらいの表情を浮かべると物理的な上から目線で政さんをにらんだ
「悪かったよ、七海ちゃん!そんなに怖い顔すんなよ」政さんは少しだけ涙目になっている。悪がきは女性に嫌われることが何よりもこたえるらしい。と言うか政《まさ》さんは一応七海を女性と認識しているみたいだ。
今朝もまだ目覚め率60%の七海にこの坂の狂気は一切、手を緩める事はしない。
坂の天辺にある『かもめヶ丘病院』
そこが七海の職場。
七海は深くため息をつきながら足を進める。
その姿は、小顔でスレンダー、顔立ちも整った美形の「悩める乙女」と言いたいところなのだが・・・
首元がだらしなく伸びた茶色のTシャツに、ダブダブな黒いロングスカート、お気に入りのチョット高かった赤いスニーカーと、背中にはズッシリと垂れ下がった黒い巨大リュック(いったい何が入っているのか)、そして、まるでこの世の不幸を一身に背負っているかのような『どんより顔』は既に、この坂では朝の日常風景として溶け込んでおり、周囲からは「美形の無駄使い」と噂されている。
病院まであと、約20mといったタイミング、
突然後方で勾配24%に襲われ悲鳴をあげたかのようなエンジン音が響く、そしてそれは背後からどんどん迫って来た!次の瞬間
せめてTシャツだけでも・・・
と深く後悔した時にはもう遅かった。
屋根に不思議な形の大きなカメラを載せたストリートビュー撮影車が、無防備な七海の後から、横、そして前へと白煙を撒き散らしながらスローモーションのように駆け抜けていった。
七海を知る人間には顔のぼかし加工は全く無意味だった。
世界へ向けて公開された『かもめヶ丘病院』を背景にした無防備過ぎる彼女の背面から前面にかけての180度。
翌週には七海のいない時間と場所限定で彼女のあだ名はバージョンアップされていた。
今の時代、面と向かって人のことをあだ名で呼んでくる人間はめったにいない。しかし、ここには、時間も場所もそして人も選ばない自由な昭和生まれが一人だけいた。
「よう!グーグルゾンビちゃん!」
「腹減ってないか?プリンあげるよ ほら!」
七海が振り向くとベテラン調理師の政さん72歳がいつもの悪がきスマイルで彼女を見上げていた。
政さんは標準身長女子の七海から見てもかなり背が低い。シワさえなければ本物のわるガキだ。
「ありがとう!ごちそうさま・・」
「あッ、でも、政さんコレ、また病院の食材使ってないよね?」
「かたいこというなよグーグルゾンビちゃん!残り物をチョットだけダヨ」と、悪がきスマイルのギアを更に一段上げてみせてくる。
七海はいつかビシッと注意しなければと思ってはいるのだが、いつもこの悪がきスマイルと美味しい賄賂にすっかり丸めこまれてしまう。
「冷蔵庫に入れといてランチのデザートにでもしなよ!グーグルゾンビちゃん」
悪がきスマイルはトップギアに入っている。
「あ、ありがと」
彼女は今日もまたこの自由な老人を野放しにしてしまった。
「で、グーグルゾンビちゃん!また一発かましたんだって!やるね〜」
悪がきはニヤリと七海を見上げている・・・
ついに七海の眉間にシワが寄った。
「政さん、なんちゃらゾンビってしゃべりたいだけだべ!ソレもうやめてけれ!」
「全然おもしれくね〜ど!」
七海は坂のふもとの小さな漁師町で元漁師の祖父と元小学校教諭の祖母に育てられ、現在も3人で暮らしている。
訛りの強い祖父の影響なのか?七海は普段は標準語?なのだが興奮すると思いっきり訛る癖がある。
自分が今、訛っていたことに気付き一瞬、恥じらいの表情を浮かべると物理的な上から目線で政さんをにらんだ
「悪かったよ、七海ちゃん!そんなに怖い顔すんなよ」政さんは少しだけ涙目になっている。悪がきは女性に嫌われることが何よりもこたえるらしい。と言うか政《まさ》さんは一応七海を女性と認識しているみたいだ。
