胸の奥底で、小さな、けれど確かな声が響く。
私は……私自身は、”私”のためにあるのに……。
「ごめんね……」
制服の胸の上に、ぎゅっと両手を当てた。
「ごめんね、私……ずっと苦しかったよね。嫌だったよね……っ」
17年間の人生で初めて、自分のためだけに言葉をかけた。
泣きたかった。
これだけ心が痛むのだから、大声で泣きじゃくりたかった。
けれど、どれだけ胸が締め付けられても、私の目頭は乾ききったままだった。
自分を傷つけ、感情を殺し続けることに慣れすぎてしまった私の身体は、一滴の涙の出し方さえ忘れてしまっていた。
痛みを麻痺させ、見て見ぬふりをしてきた代償。
泣けないほどの絶望と寂しさを抱えながら、それでも私は、冷える指先でスマートフォンを強く握りしめた。
私は震える指で、メッセージを打ち込んだ。
『田中さん、さっきのシフトの件なんだけど……やっぱり午前中の最初、莉子たちとステージが見たいな。受付は30分遅れからなら代われるんだけど、無理かな……? 急にごめんね』
送信ボタンを押す。
指先がガタガタと震え、心臓が耳元で鳴っているみたいに痛いほど打っていた。
でも、もう逃げない。
嫌われてもいい。
居場所を失ってもいい。
私が私を二度と裏切らないと、誓ったから。
送ってしまった。
取り返しのつかないことをした。
息を詰まらせて画面を見つめていると、ポケットの中のスマホがブブッと短く跳ねた。
田中さんからの返信ではなく、LINEグループ『2-5仲良し』の通知だった。
『美緒、やっと言えたね(笑)』
画面に浮かんだ莉子のメッセージに、私の思考がピタリと止まる。
……え?
『田中さんから聞いたよ! ステージ、一緒に行こう!』
『葵もシフト調整手伝うって!』
意味が分からなくて、茫然と画面を見つめていた。
ガラガラ、と教室の引き戸が静かに開く音がした。
振り返ると、そこには夕日を背に浴びた莉子と葵と結衣、そして田中さんが立っていた。
「莉子……? 葵……?それに……結衣」
「もう、美緒ったら。固まっちゃって」
莉子が少し呆れたように、けれどどこか愛おしそうな顔で歩み寄ってくると、私の目の前にしゃがみ込んだ。
「なんで……みんないるの……? 私、勝手なこと言って、困らせて……」
「困るわけないでしょ、バカ」
葵が目元を少し赤くしながら腕を組んだ。
「ずっと待ってたんだよ。美緒が自分の口で『こうしたい』って言ってくれるのを」
「……え……?」
「美緒さ、いつも『何でもいいよ』って笑うでしょ」
莉子が私の手をそっと握りしめた。
その手のひらは、びっくりするほど温かかった。
「最初はね、優しい子だなと思ってた。でもね、ずっと一緒にいるから分かるよ。美緒が本当は窓際の席が好きで、ネイビーのTシャツを着たがってて、無理して笑ってることくらい。自分が嫌われないために、必死で自分を消してることくらい……ずっと気づいてたよ」
胸が、ドクンと大きく波打った。
「じゃあ……なんで……っ」
「言おうか迷ったよ?」
田中さんが、気恥ずかしそうに苦笑いした。
「でもね、莉子たちが言ったの。『美緒が自分で自分の気持ちに気づいて、自分の声で伝えてくれないと、美緒の心が本当の意味で自由になれないから』って。だから私、わざと嫌な役やったんだからね! 嫌われてるかと思ってヒヤヒヤしたんだから!」
「田中さん……っ」



