忘れた涙も、私だった


夕暮れの教室。
傾いた太陽が窓枠を斜めに切り取り、誰もいない机と椅子を長く熱い影で深く染め上げている。

窓の外に目をやると、校庭の隅に佇む金木犀の枝から、橙色の小さな花びらが一風ごとにパラパラと地面へ落ちていくのが見えた。
昨日の雨を含んだ泥の上で、誰かの足跡に踏みつぶされていく花びら。

……私みたいだ。

ぽつりと、心の中で呟いた。
人に嫌われないため、居場所を守るために、自分自身の手で押し殺し、泥の中に踏みにじってきた私の本当の気持ち。

制服のポケットの中で、スマートフォンが短く震えた。
画面を開くと、グループLINEの通知が跳ねている。

『明日の文化祭、ミラクル起きて告白とかされないかな?』
『アハハっ。何それ絶対ないわー!』
『超楽しみだね!』

画面の中で弾ける、眩しくて楽しそうな文字の並び。
いつもなら、通知が届いて一秒でスタンプを選んでいた。
熊のキャラクターが「楽しみ!」とハートを浮かべている、波風を立てない完璧な返信。

けれど、スマートフォンを見つめる指先が、氷のように冷え切ってどうしても動かない。

「……私、何やってるんだろう」

ぽつりとこぼれた声が、誰もいないガラんとした教室の壁に寂しく反響した。

友達に嫌われたくなくて、輪から追い出されるのが怖くて、ずっと自分を消してきた。
でも、「どこでもいいよ」「何でもいいよ」と自分を殺してまで守ってきたその『居場所』で、私は一瞬でも心の底から幸せだっただろうか。

みんなの顔色ばかりに怯え、一瞬の沈黙や曇った表情に「嫌われているんじゃないか」と勝手に被害妄想を膨らませ、泣くことすらできなくなった自分でいて——何が「良い子」だ。

一番私を痛めつけ、一番私を嫌い、一番私の小さな声を無視し続けてきたのは——他の誰でもない、私自身だった。

周りに合わせるだけの毎日。
いつの間にか、「私は、周りのためにある」と思い込んでいた。

……本当は、違う。