忘れた涙も、私だった


指先がガタガタと震えている。

自分の本音を容赦なく押し殺し、気持ちを無視して勝手に笑顔を作る自分自身が、気味が悪くて、おぞましくてたまらなかった。
本当の私が、偽りの自分に喉元を強く絞めつけられ、じわじわと息の根を止められていく感覚。

「あーあ、美緒また断れなかったんだ」

遠くで看板を塗り重ねていた莉子が、ハサミの手を止めることもなく、呆れたように呟いた声が耳に届いた。

——ドクン、と心臓が痛む。

その何気ない一言には、私を哀れむような、同時に『またいつもの事か』と見下すような、冷ややかなトーンが混ざっていた。
親切な良い子を演じれば演じるほど、周りからは「優しくて断れない都合のいい奴」として処理されていく。
誰も私の犠牲や葛藤なんて見ていない。
私が勝手に引き受けて、勝手にいい顔をしているだけだと思われているのだ。

みんな、私のことなんてどうでもいいんだ……。

居場所を守るために、嫌われないために自分を殺してきたのに。
自分を殺せば殺すほど、私は「美緒」という一人の人間ではなく、ただの「便利な穴埋め用ピース」になっていく。

胸の奥が引きちぎれるほど痛かった。
惨めで、悔しくて、悲しくて、叫び出したかった。

お願いだから……悲しんでよ。
怒ってよ、私……!

放課後の教室。
夕方の冷えた空気に押し潰されそうになりながら、私は両手で固く目頭を押さえた。
これだけ苦しくて、胸が張り裂けそうなのだから、いっそ大声で泣きじゃくりたかった。

けれど——目頭は砂漠のように乾ききったままだった。

一滴の涙すら溢れてこない。
波風を立てないように感情を殺し、「何もなかったこと」にする練習ばかりを繰り返してきた私の身体は、悲鳴を上げている自分を慰めるための「泣き方」さえ、とっくに忘れてしまっていたのだ。