忘れた涙も、私だった


「私たちがどれだけ『大丈夫だよ、何言っても嫌いにならないよ』って言ったってダメなんだよ」

莉子がまっすぐ、私の目を見つめた。

「美緒自身が、美緒の味方になってあげなきゃ。美緒が自分を愛してあげなきゃ、私たちの声も届かないでしょ? だから……自分で踏み出すのを、待ってたの。信じてたんだよ」

頭の中が、温かい光で真っ白になった。

嫌われていると思っていた。
浮いていると思っていた。
都合のいい奴だと見下されていると思っていた。

違う。
違った。
歪んでいたのは、世界じゃない。周りのみんなの心でもない。
嫌われるのを恐れて、誰も信用せず、自分を誰よりも痛めつけていた——私自身の心だったんだ。

胸の奥で、カチコチに凍りついていた冷たい塊が、パキッと音を立てて割れた。

ポタリ。

莉子に握られた手の上に、あたたかい水滴が落ちた。

「あ……」

ポロポロと、目頭から熱い雫が溢れ出してきた。
泣き方を忘れていたはずなのに。いくら苦しくても出てこなかった涙が、止めようとしても、拭っても拭っても、あたたかい雫となって頬を伝って止まらなくなった。

「うあぁぁぁぁ……っ!」

私は莉子の胸に飛び込んで、子どもみたいに大声を上げて泣いた。

悲しい涙じゃない。寂しい涙でもない。
こんなにも愛されていたんだという感謝と、自分を赦せたことへの、生まれて初めて流す温かい涙。

「ごめんね……っ、ごめんね、みんな……っ! 私、みんなのこと疑って……っ」
「ううん。よく頑張ったね、美緒。自分の気持ち、ちゃんと言えたね」

莉子が私の背中を優しくトントンと叩いてくれる。
葵も、結衣も、田中さんも、泣きながら笑って私の肩を抱きしめてくれた。

涙で濡れた視界の中、窓ガラスに映る自分を見る。
歪んだ水滴は消え、そこにはみんなに抱きしめられながら泣きじゃくる、素顔の私がいた。

夕暮れの教室。
窓の外では金木犀の花びらが舞っている。
雨に打たれて踏みつぶされていたと思っていた花びらは、風に乗って遠くへ、高く空へと鮮やかに舞い上がっていた。