番犬と狼

すると扉はギギギと鈍い音を立てながらゆっくりと閉まっていく途中だった。
「あ、おいっ……!」
「ま、待てよ。まだ俺達が中に、」
勇と匠海が同時に声を張り上げるが、やがて扉は二人の声を拒絶するかの如くバタンと大きな音を轟かせて閉じてしまった。
「う、嘘だろおい」怒り肩を落として鈴木が呟くと、薄暗い闇の中で遠くの方から顧問教師の低く野太い声が聞こえた。
「よし、全員片付け終えたな。ここはもう閉めるから変な寄り道はせずにさっさと帰れよー」
「だけど先生、まだ夜の六時半っすよ」
反論する部員の声が徐々に遠ざかり、ついには聞こえなくなる。扉の僅かな隙間から入り込む光しか明かりのない暗い闇の中で、二人の背中に嫌な冷たい汗が浮かんだ。
倉庫内は隙間風が入るのか少し肌寒く、恐ろしいほど静かだ。閉じ込められた事実に二人は暫く黙り込んだ。
暫くして先に沈黙を破り動き始めたのは勇だった。
「まあじっとしてても始まらねえ。とにかく何か動かねぇとな」
そう言い、闇の中を手探り足探りに動かす。しかしすぐに腕と膝が固い物にぶつかり、勇の口から思わずうめき声が漏れる。
「うっ、痛ってぇ……」
「お、おい。大丈夫か勇」
「このぐらいなんともねえよ。それにこんな所でお前といつまでも二人きりでいる趣味はねえしな」
「趣味って、お前なあ……!」呆れ半分怒り半分が沸き、匠海が声を荒げる。
「なんとかしてさっさとここから出ねえと……おわッ!」
ふいに勇の体育館シューズのつま先が何かにぶつかり、あっと思った次の瞬間には身体が前のめりになる。咄嗟に腕を伸ばして何かを掴んだ、その時。
「うわ、ちょっと、おい……!」
暗闇の中で匠海の声が聞こえ、やがて勇は倒れ込んだ。しかし何かの上に倒れたのではなく、なぜか何かが自分の上に覆い被さっている。
「なんか暑苦しいな……」
勇が眉間に眉を寄せて思わず呟くと、なぜか上方から匠海の声が降ってきた。
「暑苦しいとはなんだ勇」
「な、なんでお前の声が上からするんだよ」
「真っ暗で俺だって状況が分からねえが、とにかくここから出ようぜ」
言いながら匠海が右手の指を動かす。人さし指と中指に何か硬い感触がする。それは硬いがおうとつがなく物ではなくーー人の肌のような感触だった。
得体のしれないものに触れ、匠海が怪訝な顔で人さし指をついと滑らせた、その時。
「んっ……」
喉の奥から絞り出されたどこか艷を含んだうめき声のようなものが聞こえ、匠海は目を見開いた。
「い、今の声は勇か?」
「お前、変なところ触ってんじゃねえよ」
「変なところって、何言ってんだお前」
匠海が顔をしかめてムッと唇を尖らせながら人さし指と中指、今度は薬指と小指を折り曲げる。硬く筋張った何かが指の腹に当たり、暗闇に目がなれない匠海はその感触を探るように指先で撫でた。
「そ、そこは俺の腹っ……ぅあっ」
言い返しながらも勇の腹筋がビクリと跳ね上がる。上擦り掠れた彼の声に、匠海の額に脂汗がにじみ出る。
「おい、変な声出すんじゃねえよ」
指摘され、勇の頭が燃えるように熱くなった。頬も火がついたように熱く赤くなるが、二人には見えない。
「だからお前が触ってんのは、俺の腹だって言って……っ」
その時、重い金属がゆっくりと動くような鈍い音が鳴り、二人は同時に頭を上げて音のする方を見た。