結城やイベント会社の大和田さんとオンラインで打合せをして公園の使用許可申請書を作成した。そして主催者に代わり俺が書類を公園緑地課に提出したのだが…。
「え、却下?!」
「公園の管理に支障があるときは許可しないって条例があって。あの公園は普通の観光客も来るでしょ?邪魔になるからだめ」
「ちゃんと場所は分ける計画です。夕方からの肝試しに関してはスタッフが責任持って…」
「黒澤くん、ダメなものはだめ。もう決まったから!」
「そんな…っ」
過去、許可がおりた内容を元に役場職員の俺が規則を守って申請書を作成したんだ。却下される理由がわからない。
しかももう決まったことって、上がダメだって決めたってことか?もし上の誰かが反対したとして、町おこしを邪魔するなんて、そいつは本当に大郷のことを考えているのか?
腹立たしくて、申請書を思わずぐしゃっと握った。そのまま走って階段を駆け上がる。
「ちょっと話を聞いて欲しいんですけど!」
「黒澤くん?なになに、どうした~?」
俺は街コン開催に一番賛同してくれそうな、少子化対策課へ駆け込んだ。
少子化対策課の課長は俺の勢いに目を白黒させているが、おかまいなしで捲し立てる。
「大郷は人口減が止まらず、十五年前の二万人から今は一万四千人、高齢化率は四十五パーセント超え、若年者は六%以下!少子化対策も移住対策も上手くいっていません。じゃ、どうするのか?!若者に大郷を知ってもらって、興味を持ってもらう。まず、ファンを作ることじゃないですか?!」
「う、うん…。概ね合意…。だけど?」
「なのに、今、せっかくの機会。街コンの開催が危ぶまれてます」
「あー…。例の、公園の使用許可の件?」
俺が握っていた申請書をチラリと見た課長はすぐに事情を察したようだ。
「けど、あれはさ。役場主催じゃないし、何も公園使わなくても…」
「他の場所は断られてしまいました。LGBTの参加が気に入らないとかそんな前時代的な理由で、です…。だから公園で実施することは、役場としてのスタンスを示すことにもなります。大郷のファンを作るために、みんなが住みやすい街に、理解ある町になるんだってメッセージになるでしょ!」
いつもは地味で目立たない俺が、部署内に響くような声を出したので、言い終わると辺りはシーンと静かになった。
職場に入ってこんなに大声出したの、多分初めてだ。
真剣な顔で課長の返事を待つと、近くにいた職員がパチパチと拍手をした。次第にその輪が広がって、いつの間にか大きくなる。
「いいぞ~!黒澤!」
「そうだそうだ!役場がせっかくの街コン、邪魔しちゃだめだろ!」
「課長、男を見せろ~!」
俺の意見に賛同した職員達が、次々に声を上げてくれた。すると課長は、大きくため息を吐く。
「なんだよ、もう!しょうがねえなぁ~」
課長は俺が持っていた申請書を取り上げると、部屋を出て行った。今度は少子化対策課から、提出してくれるつもりのようだ。
「ありがとうございます!」
少子対策課には街コンの意義を理解してもらえた。
これで、何とかなるかもしれない。
行動して良かった…!
きっと、大丈夫…。
そう思っていたが翌日、少子化対策課の課長に呼び出されてしまった。
「黒澤くん!ちょっと…」
こそこそと人気のない階段の踊り場に呼び出され、一気に不安が募る。
「あの、どうしたんですか…?」
「やっぱあれ、ダメだわ。やばい案件っぽい。意味、分かる?」
「ひょっとして、根本町長が反対してます?」
この間、場所を貸せないと言ってきたテナントのオーナーも町長派だった。だからこの申請を邪魔するなら、その一派の可能性が高い。
「分かってるんじゃないか。あのイベント、表立ってはないけど、実質企画は結城さんだろ…。俺たちは中立の公務員。肩入れしすぎると、黒澤の立場もまずくなるぞ」
「それなら街コン反対派だって町長派に肩入れしてるじゃないですか!」
「おい、声が大きい!気持ちはわかるけど、もう終わりだ!いいな?」
「課長…!」
逃げようとする課長を捕まえたが、なんと説得すればいいか、思い浮かばなかった。困っていると、階段の下から足音が聞こえてくる。
「黒澤くん…!」
「あ…、結城さん…!」
いつの間にか、結城がやって来ていた。結城の後ろには他の議員も数人いる。
「黒澤くん、聞いたよ。公園の利用申請、食い下がってくれたんだろ?」
「でも、それが…」
「あとは大丈夫だから」
結城は俺の肩をポンと叩くと、颯爽と決算特別委員会の会議室へと姿を消した。
「おい、結城と一緒にいたの、議長だろ」
「え…?」
「議長を味方に付けたのかもな。それなら、ひょっとしてひょっとするぞ…!」
それは、公園の使用許可の話、それとも、町長選挙の話…?
委員会終わり、会場整理を言い訳に俺は結城に会いに行った。しかし結城は来た時と同じ、他の議員と談笑していて話しかけられそうになかった。やきもきしながら、自分のデスクに戻って仕事をするが、手につかない…。
帰ったら電話しようと、終業時間ぴったりに職場を出て自分の車まで走る。
「黒澤くん!」
「結城さん?!」
駐車場に、結城がいた。約束はしていなかったけど…。
「良かった!直接話したくて、待ってた」
「え?す、すみません。それで、話って?」
「街コンの公園利用の件、許可下りそうだよ!」
「えー!やったー!」
俺は喜んで、思わず万歳した。
すると、手に持ってた鞄が地面に落ちる。結城は笑いながら、落ちた鞄の中身を拾ってくれた。
「ありがとうございます…!」
「こちらこそありがとう。黒澤くんが申請手伝ってくれたおかげで、許可が下りたんだから」
「いや、俺は、結局なにも…」
「申請書類が完璧だったからいろいろ突っ込めたんだよ」
「違う。結城さんが議長に根回ししたから…」
「違うって」
最後の一個、大郷地蔵尊のストラップを取る手が重なる。いつの間にかかなり接近していたらしい。びっくりして顔を上げると、結城と至近距離で目が合った。
「あっ…」
「……」
かなり近くて、焦って目を逸らしてしまう。その間に結城がストラップを拾ってくれて俺の鞄にそっとしまった。
「ごめん、待ち伏せして。ちょっと怖かった?」
「そんなこと…」
目を逸らしたから、嫌がっていると思われたのだろうか。だったら結城の勘違い。照れてるだけだ。
「じゃあまた、イベントのこと、連絡する」
「あ、は、はい…」
本当は、もう少し話したかったのだが、結城はそのまま、帰って行ってしまった。
次会った時はきちんと『待っていてくれて嬉しかった』って言おう。
結城の後ろ姿を見ながら、そう決意した。
しかし、その後は中々結城に会えなかった。
モヤモヤしていた時、漆掻き保存会前会長の奥様から連絡が来た。
「塗装用の防護服が、こんなに集まったんですか?!」
「そうなのよ。ほら…、前、街コンやるはずだったテナントのオーナーの奥さんが、婦人会で声かけてくれたみたいで」
集めたものを知り合いだった漆掻き保存会の前会長のところへ持ってきてくれたらしい。
「結城くんによろしくって。現金よね~」
「そうですね…」
あれから…。
結城は反対派をまとめたことで、今では立派な町長選挙の対抗馬として台頭し、ひょっとして保守派政党の公認を取るのではないかとまで言われている。
結城はすっかり遠い人になってしまった…。
そして「また今度」がこないまま、予算委員会も終わり、街コンまでの一ヶ月はオンラインでスタッフミーティングはしたものの、結城に直接会う機会はなかった。
「え、却下?!」
「公園の管理に支障があるときは許可しないって条例があって。あの公園は普通の観光客も来るでしょ?邪魔になるからだめ」
「ちゃんと場所は分ける計画です。夕方からの肝試しに関してはスタッフが責任持って…」
「黒澤くん、ダメなものはだめ。もう決まったから!」
「そんな…っ」
過去、許可がおりた内容を元に役場職員の俺が規則を守って申請書を作成したんだ。却下される理由がわからない。
しかももう決まったことって、上がダメだって決めたってことか?もし上の誰かが反対したとして、町おこしを邪魔するなんて、そいつは本当に大郷のことを考えているのか?
腹立たしくて、申請書を思わずぐしゃっと握った。そのまま走って階段を駆け上がる。
「ちょっと話を聞いて欲しいんですけど!」
「黒澤くん?なになに、どうした~?」
俺は街コン開催に一番賛同してくれそうな、少子化対策課へ駆け込んだ。
少子化対策課の課長は俺の勢いに目を白黒させているが、おかまいなしで捲し立てる。
「大郷は人口減が止まらず、十五年前の二万人から今は一万四千人、高齢化率は四十五パーセント超え、若年者は六%以下!少子化対策も移住対策も上手くいっていません。じゃ、どうするのか?!若者に大郷を知ってもらって、興味を持ってもらう。まず、ファンを作ることじゃないですか?!」
「う、うん…。概ね合意…。だけど?」
「なのに、今、せっかくの機会。街コンの開催が危ぶまれてます」
「あー…。例の、公園の使用許可の件?」
俺が握っていた申請書をチラリと見た課長はすぐに事情を察したようだ。
「けど、あれはさ。役場主催じゃないし、何も公園使わなくても…」
「他の場所は断られてしまいました。LGBTの参加が気に入らないとかそんな前時代的な理由で、です…。だから公園で実施することは、役場としてのスタンスを示すことにもなります。大郷のファンを作るために、みんなが住みやすい街に、理解ある町になるんだってメッセージになるでしょ!」
いつもは地味で目立たない俺が、部署内に響くような声を出したので、言い終わると辺りはシーンと静かになった。
職場に入ってこんなに大声出したの、多分初めてだ。
真剣な顔で課長の返事を待つと、近くにいた職員がパチパチと拍手をした。次第にその輪が広がって、いつの間にか大きくなる。
「いいぞ~!黒澤!」
「そうだそうだ!役場がせっかくの街コン、邪魔しちゃだめだろ!」
「課長、男を見せろ~!」
俺の意見に賛同した職員達が、次々に声を上げてくれた。すると課長は、大きくため息を吐く。
「なんだよ、もう!しょうがねえなぁ~」
課長は俺が持っていた申請書を取り上げると、部屋を出て行った。今度は少子化対策課から、提出してくれるつもりのようだ。
「ありがとうございます!」
少子対策課には街コンの意義を理解してもらえた。
これで、何とかなるかもしれない。
行動して良かった…!
きっと、大丈夫…。
そう思っていたが翌日、少子化対策課の課長に呼び出されてしまった。
「黒澤くん!ちょっと…」
こそこそと人気のない階段の踊り場に呼び出され、一気に不安が募る。
「あの、どうしたんですか…?」
「やっぱあれ、ダメだわ。やばい案件っぽい。意味、分かる?」
「ひょっとして、根本町長が反対してます?」
この間、場所を貸せないと言ってきたテナントのオーナーも町長派だった。だからこの申請を邪魔するなら、その一派の可能性が高い。
「分かってるんじゃないか。あのイベント、表立ってはないけど、実質企画は結城さんだろ…。俺たちは中立の公務員。肩入れしすぎると、黒澤の立場もまずくなるぞ」
「それなら街コン反対派だって町長派に肩入れしてるじゃないですか!」
「おい、声が大きい!気持ちはわかるけど、もう終わりだ!いいな?」
「課長…!」
逃げようとする課長を捕まえたが、なんと説得すればいいか、思い浮かばなかった。困っていると、階段の下から足音が聞こえてくる。
「黒澤くん…!」
「あ…、結城さん…!」
いつの間にか、結城がやって来ていた。結城の後ろには他の議員も数人いる。
「黒澤くん、聞いたよ。公園の利用申請、食い下がってくれたんだろ?」
「でも、それが…」
「あとは大丈夫だから」
結城は俺の肩をポンと叩くと、颯爽と決算特別委員会の会議室へと姿を消した。
「おい、結城と一緒にいたの、議長だろ」
「え…?」
「議長を味方に付けたのかもな。それなら、ひょっとしてひょっとするぞ…!」
それは、公園の使用許可の話、それとも、町長選挙の話…?
委員会終わり、会場整理を言い訳に俺は結城に会いに行った。しかし結城は来た時と同じ、他の議員と談笑していて話しかけられそうになかった。やきもきしながら、自分のデスクに戻って仕事をするが、手につかない…。
帰ったら電話しようと、終業時間ぴったりに職場を出て自分の車まで走る。
「黒澤くん!」
「結城さん?!」
駐車場に、結城がいた。約束はしていなかったけど…。
「良かった!直接話したくて、待ってた」
「え?す、すみません。それで、話って?」
「街コンの公園利用の件、許可下りそうだよ!」
「えー!やったー!」
俺は喜んで、思わず万歳した。
すると、手に持ってた鞄が地面に落ちる。結城は笑いながら、落ちた鞄の中身を拾ってくれた。
「ありがとうございます…!」
「こちらこそありがとう。黒澤くんが申請手伝ってくれたおかげで、許可が下りたんだから」
「いや、俺は、結局なにも…」
「申請書類が完璧だったからいろいろ突っ込めたんだよ」
「違う。結城さんが議長に根回ししたから…」
「違うって」
最後の一個、大郷地蔵尊のストラップを取る手が重なる。いつの間にかかなり接近していたらしい。びっくりして顔を上げると、結城と至近距離で目が合った。
「あっ…」
「……」
かなり近くて、焦って目を逸らしてしまう。その間に結城がストラップを拾ってくれて俺の鞄にそっとしまった。
「ごめん、待ち伏せして。ちょっと怖かった?」
「そんなこと…」
目を逸らしたから、嫌がっていると思われたのだろうか。だったら結城の勘違い。照れてるだけだ。
「じゃあまた、イベントのこと、連絡する」
「あ、は、はい…」
本当は、もう少し話したかったのだが、結城はそのまま、帰って行ってしまった。
次会った時はきちんと『待っていてくれて嬉しかった』って言おう。
結城の後ろ姿を見ながら、そう決意した。
しかし、その後は中々結城に会えなかった。
モヤモヤしていた時、漆掻き保存会前会長の奥様から連絡が来た。
「塗装用の防護服が、こんなに集まったんですか?!」
「そうなのよ。ほら…、前、街コンやるはずだったテナントのオーナーの奥さんが、婦人会で声かけてくれたみたいで」
集めたものを知り合いだった漆掻き保存会の前会長のところへ持ってきてくれたらしい。
「結城くんによろしくって。現金よね~」
「そうですね…」
あれから…。
結城は反対派をまとめたことで、今では立派な町長選挙の対抗馬として台頭し、ひょっとして保守派政党の公認を取るのではないかとまで言われている。
結城はすっかり遠い人になってしまった…。
そして「また今度」がこないまま、予算委員会も終わり、街コンまでの一ヶ月はオンラインでスタッフミーティングはしたものの、結城に直接会う機会はなかった。

