待ち合わせのレストランに着いたのは五時ちょうど。
「はじめまして!大和田です。イベント会社を経営していて、実は私も同郷なんですよ」
「はじめまして。私は鈴木です。工芸デザイナーやってます。よろしく~」
「よ、よろしくお願いします…」
店の中は間接照明が採用されており、明るくはないのに、暗すぎない。めちゃくちゃオシャレな仕様のレストランだ。更に、合流した二人の男女は場に見合ったオシャレな人物で、俺は萎縮した。飲み物も何を頼んでいいか分からず結城にまかせてしまった。一杯目が運ばれてきて乾杯しようとしたのだが…。
「瓶にライムが挿さってる!」
乾杯用に運ばれてきたビールの瓶の口にはライムが挿さっていて、どうやって飲むのかわからない…!
「Coronaビールだよ。中に押し込んで。ゆっくり逆さまにすると、味が均一にな…、って、あー!」
アドバイスした結城は、俺が無造作に瓶を逆さにしたのを見て、慌てて瓶を取り上げる。勢いよく逆さにしてしまい、瓶の口から炭酸の泡が吹き出したのだ。
瓶を取り上げられた俺は無事だったが、代わりに結城の手とテーブルはびしょびしょになってしまった。すぐ店員さんがきて、テーブルを拭いてくれたが、結城は手を洗うと言って席を立った。
いきなり、初対面の人と、三人になってしまった…!どうする、俺?!工芸デザイナーだという男性は、感心したように俺に言った。
「いきなりご馳走様です。二人は付き合って、日が浅いの?」
「へ…?」
鈴木さんの質問の意味が全く分からなかった。付き合って日が浅いって、ご馳走様って、どういうこと?俺がポカンとしていると、イベント会社の大和田さんが助け舟を出してくれる。
「私も思った!注文の時も乾杯の時もすごく甲斐甲斐しいじゃない。だから二人は付き合いたてなのかなーって」
どうやら二人は結城がゲイだと知っているらしい。さすが結城。自分に自信がある男は友人にカミングアウトしているんだ…。
俺は結城のように、友人に自分のセクシャリティを話したことはないし、今後も話す気がない。そんな地味で平凡な俺と付き合ってると誤解されては、結城が可哀想だ。
「私たちは付き合っていません。私は大郷漆掻き保存会の者で、街コンで漆塗り体験会をする、その打合わせで来ただけなんです…」
「え、そうなの?結城くんがイベントの話をしてきた時、打ち合わせも紹介もDMでいいのに、東京に来るって張り切ってるから、てっきりデートしたいんだろうなって思ってた」
「保存会ですごく頑張ってる若手がいるからどうしても…って、熱心だったよ。だから、俺もてっきり…」
「デート?!」
しかも保存会で頑張ってる若手って俺のこと?俺は頑張ってない、むしろ街コンでの体験会を止めさせようとここに来たくらいだ。一生懸命なやつって、自分もそうだから他のやつもそうだろうって視界に補正がかかるのだろうか。
「結城さんはいつも、大郷に熱心で一生懸命ですから。漆掻き保存会の体験会も考えてくれて、打ち合わせの時間を調整してくれて…」
俺という冴えない男と東京に来てイベントの調整をし、大郷の未来を真剣に考え新道の駅構想に反対するくらい熱い男なのだ、結城は。
「確かにね!でもそれ本人に言ってあげて!絶対喜ぶよ!」
「うんうん。たぶん結城くん黒澤くんのこと好きだと思うし」
結城が、俺を好き…?!二人の発言に、今度こそ、思考がオーバーヒートを起こして完全停止した。その時ちょうど、お手洗いから結城が戻ってきた。
「なになに?なんか盛り上がってない?」
「結城くんの話で盛り上がってたんだよ」
「え…。まさかまた『事前運動』のこと?」
結城は席について、スマートに瓶の口にライムをねじ込むと、ビール瓶に口をつけた。
「ちがーう!結城くんはいつも熱心だって、黒澤くんが褒めてたんだよ!」
「ぶ…っ…!」
結城は口に含んだビールを吹き出した。ゴホゴホと咳き込んで、手で口元を隠している。
「結城さん、大丈夫ですか…?!」
驚いて声をかけると結城はうん、と頷いたが俯いたままだ。心配する俺をよそに大和田さんと鈴木さんは結城に追い打ちをかける。
「結城くん、にやけてない?」
「うん。これはにやけてるな~」
「と。とりあえず、おしぼりもらいましょう!」
二人が笑うのを無視して俺はおしぼりを注文した。おしぼりが来たあと、改めてもう一度四人で乾杯する。
「じゃー、漆塗り体験をしたあと、実際に漆塗りの食器で食事をしてもらう流れね」
「うん。それで、場所は問題なさそう?」
「予約できたよ。むしろ、チケットの販売状況的に、余りそうなくらい広いかな~」
「そう…」
「フォロワー沢山いる結城くんが顔出して宣伝してくれれば一発なんだけど、議員って難しいね」
宣伝くらいは問題ない気がするが、前回も警察から聴取を受けたようだし、慎重に行動しているのだろう。こんなに、大郷のことを考えて結城が真面目に頑張ってるのにチケットが売れていないと思うと…。居ても立っても居られなくなった。
「じゃ、じゃあ俺も一枚買います!」
体験会を阻止するために来たはずなのに、今日一日中結城の話を聞いて感化されたのか、思わず俺はそう発言していた。何か少しでも協力したくなったのだ。突然の発言に、結城が驚いた顔で俺を見る。
俺、何かまずいこと、言った…?鈴木さんと大谷田さんは、少し困ったように笑った。
「黒澤くんはだめだよ~」
「そうだよ、恋人がいる人は参加できないよ?」
「え?恋人はいませんけど…」
「「え…?」」
二人は結城に目をやる。つられて俺も結城を見ると、彼は眉を寄せ口を引き結び、若干面白くなさそうな顔をしていた。二人の視線に気がつくと、ハッとしてビールを煽る。
「あのさ、黒澤くんは町役場の職員で大郷漆保存会の代表代理だから。そういうの、セクハラになるから、もう禁止な!」
「「え~~?」」
結城を揶揄っていたらしい二人は残念そうにしていたが、俺も少しだけ残念に思った。
結城はかなり早いペースで飲みながらも、真面目に打ち合わせをする。一通り話終わって時計を見るともう八時近い。東京の人はこれから二軒目に行く時間だが、俺たちは席を立った。
「そろそろ終電だから」
「「まじで?!」」
驚かれながら店を出ると、銀座はまだ明るい。それもそのはず、店はどこも閉店していない。駅ビルのデパートも営業していたので、お土産を買うため中に入った。そこには東京土産以外にも、地方の工芸品などもたくさん並んでいた。
「漆の製品もある!」
そう言って結城が手に取ったのは、朱塗りの達磨だった。
「それは漆じゃありませんよ。ニスです」
「え?そうなの?!」
「ええ。だるまに使うこともありますが、だとすると高級品ですね」
「ふーん…」
結城は何だか少しがっかりしたような子供っぽい顔をした。ひょっとして、酔っ払っているのか?そう言えばさっきかなり早いペースで酒を飲んでいた。
「酔ってます?」
「酔ってません」
これは完全に酔っている…。酔っているならと、俺は思ったことを正直に尋ねた。
「選挙に勝って達磨に目を入れる時、大郷漆達磨だとPRしようと思った、とか?」
「そうだけど…」
「当選するつもりなんだ…!」
県議会議員の息子らしいが、あの保守王国大郷で、ほぼ政治経験もない二十六歳が本気で町長になるつもりらしい。
「つもりなんだ…って、ちょっと引っかかるな。応援してもらえないってこと?」
「公務員なんで、中立です。応援はできません」
「まあ、そうだけど…応援してよ!」
結城は赤い顔で、少し怒っている。やはりかなり酔っ払っているようだ。
「ダメですよ、告示前に投票を促しちゃ!酔いすぎです!」
「黒澤くんだからいったんだよ。他の人には言わないし、酔ってない!」
酔ってない…、と言う割に怪しい足取りで結城は店を出た。急いでふらふら歩いている結城を追いかける。
「大丈夫ですか?つかまってください」
「ダメだよ、セクハラになる」
「なりませんよ、大丈夫」
「ダメだ…。まず、この間の黒澤くんの喪服姿がぶっ刺さって。やっとフォローしてくれたのにはしゃいで。今日も服装と普段のギャップにもやられて。いつも塩対応なのに俺がいない所では俺を褒めてたって聞いて喜んだのに街コンのチケット買うって言われて。つい彼氏ヅラで不機嫌になっちゃってさ。もうセクハラ確定だろ!」
「喪服…?」
この間の、葬式の時…?俺もあの日、結城の喪服姿にどきどきしていた。あの背徳感を思い出すと急に、結城を支えようとしていた手が止まる。もしさっきのことが本当だったら嬉しいし、手が止まったのはただ後ろめたかったからだ。しかし結城は、俺の態度を誤解したらしい。
「あ、気持ちわるいこといって、ごめん…。冗談だよ。酔ってて…」
結城はおどけたように、顔をくしゃくしゃにして笑った。冗談か…。そうだよな…。俺は少しほっとして、同時にがっかりして、次に少し心配になった。
「気持ち悪いとかはないですけど、結城さんがオープンで、驚いたっていうか…」
村社会かつ超保守的な昭和世代ばかりの大郷でゲイだなんてカミングアウトしたら、きっと大変なことになる。
「大郷では、その、ゲイだって言わない方がいいと思います。みんなまだ昭和初期の感覚だから、町長選に、影響すると思う」
「……」
結城は何も言わなかった。
「う…!」
ーー訂正、言えなかった、らしい。結城は口元を抑えてトイレに駆け込んだ。
「はじめまして!大和田です。イベント会社を経営していて、実は私も同郷なんですよ」
「はじめまして。私は鈴木です。工芸デザイナーやってます。よろしく~」
「よ、よろしくお願いします…」
店の中は間接照明が採用されており、明るくはないのに、暗すぎない。めちゃくちゃオシャレな仕様のレストランだ。更に、合流した二人の男女は場に見合ったオシャレな人物で、俺は萎縮した。飲み物も何を頼んでいいか分からず結城にまかせてしまった。一杯目が運ばれてきて乾杯しようとしたのだが…。
「瓶にライムが挿さってる!」
乾杯用に運ばれてきたビールの瓶の口にはライムが挿さっていて、どうやって飲むのかわからない…!
「Coronaビールだよ。中に押し込んで。ゆっくり逆さまにすると、味が均一にな…、って、あー!」
アドバイスした結城は、俺が無造作に瓶を逆さにしたのを見て、慌てて瓶を取り上げる。勢いよく逆さにしてしまい、瓶の口から炭酸の泡が吹き出したのだ。
瓶を取り上げられた俺は無事だったが、代わりに結城の手とテーブルはびしょびしょになってしまった。すぐ店員さんがきて、テーブルを拭いてくれたが、結城は手を洗うと言って席を立った。
いきなり、初対面の人と、三人になってしまった…!どうする、俺?!工芸デザイナーだという男性は、感心したように俺に言った。
「いきなりご馳走様です。二人は付き合って、日が浅いの?」
「へ…?」
鈴木さんの質問の意味が全く分からなかった。付き合って日が浅いって、ご馳走様って、どういうこと?俺がポカンとしていると、イベント会社の大和田さんが助け舟を出してくれる。
「私も思った!注文の時も乾杯の時もすごく甲斐甲斐しいじゃない。だから二人は付き合いたてなのかなーって」
どうやら二人は結城がゲイだと知っているらしい。さすが結城。自分に自信がある男は友人にカミングアウトしているんだ…。
俺は結城のように、友人に自分のセクシャリティを話したことはないし、今後も話す気がない。そんな地味で平凡な俺と付き合ってると誤解されては、結城が可哀想だ。
「私たちは付き合っていません。私は大郷漆掻き保存会の者で、街コンで漆塗り体験会をする、その打合わせで来ただけなんです…」
「え、そうなの?結城くんがイベントの話をしてきた時、打ち合わせも紹介もDMでいいのに、東京に来るって張り切ってるから、てっきりデートしたいんだろうなって思ってた」
「保存会ですごく頑張ってる若手がいるからどうしても…って、熱心だったよ。だから、俺もてっきり…」
「デート?!」
しかも保存会で頑張ってる若手って俺のこと?俺は頑張ってない、むしろ街コンでの体験会を止めさせようとここに来たくらいだ。一生懸命なやつって、自分もそうだから他のやつもそうだろうって視界に補正がかかるのだろうか。
「結城さんはいつも、大郷に熱心で一生懸命ですから。漆掻き保存会の体験会も考えてくれて、打ち合わせの時間を調整してくれて…」
俺という冴えない男と東京に来てイベントの調整をし、大郷の未来を真剣に考え新道の駅構想に反対するくらい熱い男なのだ、結城は。
「確かにね!でもそれ本人に言ってあげて!絶対喜ぶよ!」
「うんうん。たぶん結城くん黒澤くんのこと好きだと思うし」
結城が、俺を好き…?!二人の発言に、今度こそ、思考がオーバーヒートを起こして完全停止した。その時ちょうど、お手洗いから結城が戻ってきた。
「なになに?なんか盛り上がってない?」
「結城くんの話で盛り上がってたんだよ」
「え…。まさかまた『事前運動』のこと?」
結城は席について、スマートに瓶の口にライムをねじ込むと、ビール瓶に口をつけた。
「ちがーう!結城くんはいつも熱心だって、黒澤くんが褒めてたんだよ!」
「ぶ…っ…!」
結城は口に含んだビールを吹き出した。ゴホゴホと咳き込んで、手で口元を隠している。
「結城さん、大丈夫ですか…?!」
驚いて声をかけると結城はうん、と頷いたが俯いたままだ。心配する俺をよそに大和田さんと鈴木さんは結城に追い打ちをかける。
「結城くん、にやけてない?」
「うん。これはにやけてるな~」
「と。とりあえず、おしぼりもらいましょう!」
二人が笑うのを無視して俺はおしぼりを注文した。おしぼりが来たあと、改めてもう一度四人で乾杯する。
「じゃー、漆塗り体験をしたあと、実際に漆塗りの食器で食事をしてもらう流れね」
「うん。それで、場所は問題なさそう?」
「予約できたよ。むしろ、チケットの販売状況的に、余りそうなくらい広いかな~」
「そう…」
「フォロワー沢山いる結城くんが顔出して宣伝してくれれば一発なんだけど、議員って難しいね」
宣伝くらいは問題ない気がするが、前回も警察から聴取を受けたようだし、慎重に行動しているのだろう。こんなに、大郷のことを考えて結城が真面目に頑張ってるのにチケットが売れていないと思うと…。居ても立っても居られなくなった。
「じゃ、じゃあ俺も一枚買います!」
体験会を阻止するために来たはずなのに、今日一日中結城の話を聞いて感化されたのか、思わず俺はそう発言していた。何か少しでも協力したくなったのだ。突然の発言に、結城が驚いた顔で俺を見る。
俺、何かまずいこと、言った…?鈴木さんと大谷田さんは、少し困ったように笑った。
「黒澤くんはだめだよ~」
「そうだよ、恋人がいる人は参加できないよ?」
「え?恋人はいませんけど…」
「「え…?」」
二人は結城に目をやる。つられて俺も結城を見ると、彼は眉を寄せ口を引き結び、若干面白くなさそうな顔をしていた。二人の視線に気がつくと、ハッとしてビールを煽る。
「あのさ、黒澤くんは町役場の職員で大郷漆保存会の代表代理だから。そういうの、セクハラになるから、もう禁止な!」
「「え~~?」」
結城を揶揄っていたらしい二人は残念そうにしていたが、俺も少しだけ残念に思った。
結城はかなり早いペースで飲みながらも、真面目に打ち合わせをする。一通り話終わって時計を見るともう八時近い。東京の人はこれから二軒目に行く時間だが、俺たちは席を立った。
「そろそろ終電だから」
「「まじで?!」」
驚かれながら店を出ると、銀座はまだ明るい。それもそのはず、店はどこも閉店していない。駅ビルのデパートも営業していたので、お土産を買うため中に入った。そこには東京土産以外にも、地方の工芸品などもたくさん並んでいた。
「漆の製品もある!」
そう言って結城が手に取ったのは、朱塗りの達磨だった。
「それは漆じゃありませんよ。ニスです」
「え?そうなの?!」
「ええ。だるまに使うこともありますが、だとすると高級品ですね」
「ふーん…」
結城は何だか少しがっかりしたような子供っぽい顔をした。ひょっとして、酔っ払っているのか?そう言えばさっきかなり早いペースで酒を飲んでいた。
「酔ってます?」
「酔ってません」
これは完全に酔っている…。酔っているならと、俺は思ったことを正直に尋ねた。
「選挙に勝って達磨に目を入れる時、大郷漆達磨だとPRしようと思った、とか?」
「そうだけど…」
「当選するつもりなんだ…!」
県議会議員の息子らしいが、あの保守王国大郷で、ほぼ政治経験もない二十六歳が本気で町長になるつもりらしい。
「つもりなんだ…って、ちょっと引っかかるな。応援してもらえないってこと?」
「公務員なんで、中立です。応援はできません」
「まあ、そうだけど…応援してよ!」
結城は赤い顔で、少し怒っている。やはりかなり酔っ払っているようだ。
「ダメですよ、告示前に投票を促しちゃ!酔いすぎです!」
「黒澤くんだからいったんだよ。他の人には言わないし、酔ってない!」
酔ってない…、と言う割に怪しい足取りで結城は店を出た。急いでふらふら歩いている結城を追いかける。
「大丈夫ですか?つかまってください」
「ダメだよ、セクハラになる」
「なりませんよ、大丈夫」
「ダメだ…。まず、この間の黒澤くんの喪服姿がぶっ刺さって。やっとフォローしてくれたのにはしゃいで。今日も服装と普段のギャップにもやられて。いつも塩対応なのに俺がいない所では俺を褒めてたって聞いて喜んだのに街コンのチケット買うって言われて。つい彼氏ヅラで不機嫌になっちゃってさ。もうセクハラ確定だろ!」
「喪服…?」
この間の、葬式の時…?俺もあの日、結城の喪服姿にどきどきしていた。あの背徳感を思い出すと急に、結城を支えようとしていた手が止まる。もしさっきのことが本当だったら嬉しいし、手が止まったのはただ後ろめたかったからだ。しかし結城は、俺の態度を誤解したらしい。
「あ、気持ちわるいこといって、ごめん…。冗談だよ。酔ってて…」
結城はおどけたように、顔をくしゃくしゃにして笑った。冗談か…。そうだよな…。俺は少しほっとして、同時にがっかりして、次に少し心配になった。
「気持ち悪いとかはないですけど、結城さんがオープンで、驚いたっていうか…」
村社会かつ超保守的な昭和世代ばかりの大郷でゲイだなんてカミングアウトしたら、きっと大変なことになる。
「大郷では、その、ゲイだって言わない方がいいと思います。みんなまだ昭和初期の感覚だから、町長選に、影響すると思う」
「……」
結城は何も言わなかった。
「う…!」
ーー訂正、言えなかった、らしい。結城は口元を抑えてトイレに駆け込んだ。

