年が明けると、結城は堂々と町役場の記者クラブで出馬を表明した。その後、現職の根本町長も出馬表明し、現在は各党の公認候補選びの真っ最中。
大郷は保守王国だから、保守派の公認を取るべく両陣営とも必死らしい。
そんなわけで、あれから結城とは一度も会っていない。結城は仕事を辞めて町長選挙に臨むらしく、年末年始は仕事の引き継ぎや会合で忙しかったようだ。
俺はうっかり告白したことが気まず過ぎて、会わずに済んでむしろ助かっている。
「お前じゃだめだ!別のやつを出せ!」
年度末に向けて各種申請も活況だ。俺が所属する地域振興課の窓口でも爺さんが喚いている。
「黒澤くん!助けて!」
すっごい嫌だったけど、指名されて仕方なく、その爺さんの前に座った。
「黒澤さんてあれか?西の山で漆採ってた黒澤さんか?」
「はい。私が今、祖父の自宅と山を受け継いでいます」
爺さんは俺の答えに感動したようで、ばんばんと俺の肩を叩く。
「俺は、黒澤くんみたいな人が役場で働くべきだと思ってるんだ!地元に住んでもいない奴に俺たちの税金の使い道を決められるなんて、納得いかないだろ?!」
あ~…。大郷では珍しく無いが、役場の職員は大郷に住むべき論者の人か。それでさっきの担当は俺を呼んだんだな…?
「結婚で引っ越したりやむを得ない事情もありますからね~。あ。地産地消メニューの申請ですか?承りました」
俺はささっと書類を受け取って、面倒な爺さんを丁寧に見送る。すると、さっき俺に無茶振りした職員が謝りに来た。
「黒澤くん、ごめんね!ありがとう…」
「いえ、全然…。お子さんの通学とか考えたら、大郷はしんどいですもんね」
「そうなのよ…!何も知らないくせに、頭の硬い爺さんたちには参っちゃう…。あーいう層が、反結城勢力よ」
「反結城…?」
「結城さんて、職場が県庁の方で実質こっちは住民票だけなんですって。そんな奴に任せられるか~ってなってて、後援会員集め苦戦してるらしいよ」
仕事で遅くなると事務所に泊まることもあると言っていたが、結城は基本、大郷に住んでる。
ひょっとして誰かが、悪い噂を流しているのだろうか…?
「あのー、すみません…」
今度は窓口に、今どきのおしゃれな男性がやって来た。
「あ…っ」
「Uターン就職の助成金申請をお願いします」
「は、はい…」
この男は俺のことを覚えていないが、俺ははっきり覚えていた。
彼はオシャレな石窯ピザ屋の店長だ!するとこの店長もUターン就職ってことか。書類を確認したが、不備はない。必要書類も全部揃っている。
「特に不備はないのでお預かりします」
「お願いします」
店長が帰ってから俺はその書類をコピーして、もう一度ながめた。店長とあの女の子達だろうか、申請は三人分。委任状もついていて、どれも問題ない。…いつもなら押印してすぐに支払いに回すが、ちょうど昼休みの鐘が鳴ったので、保管用のコピーと原本を机の中にしまった。
昼食を買うためコンビニに向かう途中、スマートフォンを見るとDMの通知がきていた。
送り主は、偶然にもあの石窯ピザの店の店員の女の子…。きっと結城のフォロワーから俺を見つけたんだろう。内容は、結城と飲みたいってことだった。本人に無視されたから俺に送ったんだろうが、結城は今、絶対それどころじゃないはず。
そのままSNSを閉じようとして間違って、女の子の投稿ページに飛んでしまった。
その投稿には「県庁周辺」「地元」のタグが貼ってある。彼女の地元は大郷ではなく県庁周辺らしい。
そして「県北よりこっちに帰りたい」とも書いてあった。Uターン助成金は一度県外に住み大郷に在住することが条件だ。県庁周辺が地元でも一度県外に出て現住所が大郷なら問題はない。
大郷も県北だが、大郷は大郷と言われる事が多いので『県北』になんとなく引っかかり、投稿を遡った。投稿からは県外に出た様子が窺えない。彼女たちの出身短大名は県北にある学校だった。その後もそのまま短大の近くに住んでいる様子…。
俺は居ても立っても居られなくなり走って自分の席に戻った。申請書類に記載された名前と、彼女たちのアカウント名を見比べる。
「……」
アカウント名と書類の下の名前が一致している。顔写真も同じだし、このアカウントと申請者達は同一人物だ。
しかし彼女たちは堂々としていて、まるで不正を隠すそぶりがない。申請していることを知らない、とか…?
だとするとこの会社、怪しすぎる。
俺は他の申請状況も調べた。この会社は中小企業の創業支援金、地産地消メニュー支援金なども受け取っている…。
それを確認してすぐ、石窯ピザ店に電話を掛けた。しかし、留守電になってしまって繋がらない。我慢できなくて、俺は自席で弁当を食べていた課長のところへ行った。
「課長、さっき来た方の申請書類がおかしくて、確認してきます!」
「え?!電話じゃだめなのか!?」
「繋がらなくて…。でもどうしても確認したくて、事業計画書を見せてもらってきます」
「ちょっとまてよ、どういうこと…?」
「この石窯ピザ店、複数名Uターン申請を出してるんですけど、店の女の子、ずっと県内在住です。地産地消メニューもおかしかったし、オーナーは東京在住なのに創業支援金を受給してます!」
「落ち着けって。それだけで決めつけるのは…」
「ええ、ですから事業計画書を貰ってきます!それを見て女の子達にも確認します!」
課長に頭を下げると、俺は申請書を持って役場を飛び出した。
もしこれが本当に不正受給なら許せない…!
だって結城は本当に家を買って大郷に住んでいるのに、住んでいないと批判されている。なのに住んでもいない人が助成金を貰っていて、それを会社が主導しているとしたら。真面目にやってる結城が報われないなんてひどすぎるし、不正に補助金を出すくらいなら、漆掻き保存会の補助金額を維持するべきだろう!
俺は正義感ではなく個人的な怒りから、石窯ピザ店に乗り込んだ。
今日は定休日のようだったが、中に明かりが見えたので声をかけると先ほどの店長が出てきた。
「今日はお休みなんですけど…。あれ…?」
店長は俺を覚えていたらしい。いつもの作業着と、身分証をつけてきて良かった。
「私、大郷町役場の黒澤です。先ほど提出いただいた書類で確認がありまして」
「はあ…」
身分証を見ながら、店長は表情を曇らせた。そして目を細めて嫌そうな声を出す。
「なんかの詐欺だったりします…?」
オレオレ詐欺を疑って、逃げるつもりか?俺は追加で名刺を差し出した。
「先ほどお会いしましたよね?これ、名刺とさっきの申請書です。不備はないとお伝えしたのですが、再度確認したところ、追加書類の提出が必要になりました。事業所計画書をいただけませんか?登記も含めて確認させてください」
「そんなこと急に言われても…」
「今あればお預かりしますが、私を疑うなら、郵送でも窓口に来ていただいてもかまいません。ただ、提出時期によってはお支払いが出来ない可能性があります」
「はぁ…?」
俺が補助金の申請を疑っていると分かると、彼は明らかに苛立った声を出した。
「ちょっと待って!確認しますから!」
そう言ってバタバタと店の中へ入っていった。店の奥からは、店長の話し声が聞こえる。そして二十分ぐらい待って、やや不安になってきた頃、俺の上司、地域振興課の課長がやって来た。
「黒澤~!何やってんだ!」
「何って、報告したはずですけど?課長こそなんでここに?!」
「ばかっ!そんなにすぐ行くやつがあるか!」
課長は俺の手を引っ張り、ちょうど戻ってきた店の店長に頭を下げて帰ろうとした。
「何でですか?!」
「いいから来い!」
俺は強制的に役場に連れ戻された。そのままミーティングルームに連行され、そこに地域振興課の部長と都市計画課の部長が俺を待ち構えていた。
「黒澤…!石窯ピザ店のオーナーからクレームがきたぞ!お前、いきなり店に行くなんてどういうつもりだ?!」
怒りを露わに俺を叱りつけたのは、都市計画課の部長だった。すると店長が電話で話していたのは、こいつ?
「そうだ。まだ不正だって決まったわけでもないのに、犯人扱いしたらしいじゃねーか!」
俺の直属の上司は追随して、俺を叱った。少なくとも課長には話して出かけたし、三人に詰め寄られても納得がいかなかったので、俺は言い返した。
「課長には話しましたが、Uターン申請を出している店の女の子、ずっと県内に住んでいるんです。でも、まだ証拠不十分なので不正受給だとは言っていません。事業計画書を出して欲しいといっただけです」
直属の上司である地域振興課の部長は、眉間に皺を寄せ、イライラした様子で俺を睨んだ。
「同じことだろうが…!もう二度とこんな事するな!申請書類は俺に渡せ。俺が処理する!」
「不正かもしれないのに確認もしないで助成金を支払うってことですか?それって下手したら背任じゃないですか?」
「黙れ!」
俺と地域振興課の部長のやり取りが気に入らなかったらしい都市計画課の部長は、ばん、と机をたたいた。俺は思わず、ビクッと縮こまる。
「黒澤、それを言ったら漆掻き保存会の代表なんかやって、副業禁止の職務規定違反な上に、補助金まで貰って、お前も背任だろうが!」
「漆掻き保存会の代表は兼業届を出しましたし、もちろん報酬もなし。それに俺が代表になってからは補助金を受け取ってません!」
「口答えするな!お前、自分で何をやってるか分かってるのか?!」
ついに都市計画課の部長が俺に掴みかかる勢いで近づいてきた。あまりにもすごい剣幕で、俺は思わず後退った。すると、怯えた様子を見透かされて、持っていた書類を取り上げられてしまう。
「あ…っ!」
申請書を取り上げると三人は、俺をジロリと一瞥し出て行く。
「菊池部長~、申し訳ありませんでした~」
「申し訳ありません!あいつ、根暗で真面目で、悪いやつじゃないんですけどね…」
ミーティングルームの外で俺の直属の上司たちが必死に、都市計画課の菊池部長に詫びを入れている声が聞こえた。
大郷は保守王国だから、保守派の公認を取るべく両陣営とも必死らしい。
そんなわけで、あれから結城とは一度も会っていない。結城は仕事を辞めて町長選挙に臨むらしく、年末年始は仕事の引き継ぎや会合で忙しかったようだ。
俺はうっかり告白したことが気まず過ぎて、会わずに済んでむしろ助かっている。
「お前じゃだめだ!別のやつを出せ!」
年度末に向けて各種申請も活況だ。俺が所属する地域振興課の窓口でも爺さんが喚いている。
「黒澤くん!助けて!」
すっごい嫌だったけど、指名されて仕方なく、その爺さんの前に座った。
「黒澤さんてあれか?西の山で漆採ってた黒澤さんか?」
「はい。私が今、祖父の自宅と山を受け継いでいます」
爺さんは俺の答えに感動したようで、ばんばんと俺の肩を叩く。
「俺は、黒澤くんみたいな人が役場で働くべきだと思ってるんだ!地元に住んでもいない奴に俺たちの税金の使い道を決められるなんて、納得いかないだろ?!」
あ~…。大郷では珍しく無いが、役場の職員は大郷に住むべき論者の人か。それでさっきの担当は俺を呼んだんだな…?
「結婚で引っ越したりやむを得ない事情もありますからね~。あ。地産地消メニューの申請ですか?承りました」
俺はささっと書類を受け取って、面倒な爺さんを丁寧に見送る。すると、さっき俺に無茶振りした職員が謝りに来た。
「黒澤くん、ごめんね!ありがとう…」
「いえ、全然…。お子さんの通学とか考えたら、大郷はしんどいですもんね」
「そうなのよ…!何も知らないくせに、頭の硬い爺さんたちには参っちゃう…。あーいう層が、反結城勢力よ」
「反結城…?」
「結城さんて、職場が県庁の方で実質こっちは住民票だけなんですって。そんな奴に任せられるか~ってなってて、後援会員集め苦戦してるらしいよ」
仕事で遅くなると事務所に泊まることもあると言っていたが、結城は基本、大郷に住んでる。
ひょっとして誰かが、悪い噂を流しているのだろうか…?
「あのー、すみません…」
今度は窓口に、今どきのおしゃれな男性がやって来た。
「あ…っ」
「Uターン就職の助成金申請をお願いします」
「は、はい…」
この男は俺のことを覚えていないが、俺ははっきり覚えていた。
彼はオシャレな石窯ピザ屋の店長だ!するとこの店長もUターン就職ってことか。書類を確認したが、不備はない。必要書類も全部揃っている。
「特に不備はないのでお預かりします」
「お願いします」
店長が帰ってから俺はその書類をコピーして、もう一度ながめた。店長とあの女の子達だろうか、申請は三人分。委任状もついていて、どれも問題ない。…いつもなら押印してすぐに支払いに回すが、ちょうど昼休みの鐘が鳴ったので、保管用のコピーと原本を机の中にしまった。
昼食を買うためコンビニに向かう途中、スマートフォンを見るとDMの通知がきていた。
送り主は、偶然にもあの石窯ピザの店の店員の女の子…。きっと結城のフォロワーから俺を見つけたんだろう。内容は、結城と飲みたいってことだった。本人に無視されたから俺に送ったんだろうが、結城は今、絶対それどころじゃないはず。
そのままSNSを閉じようとして間違って、女の子の投稿ページに飛んでしまった。
その投稿には「県庁周辺」「地元」のタグが貼ってある。彼女の地元は大郷ではなく県庁周辺らしい。
そして「県北よりこっちに帰りたい」とも書いてあった。Uターン助成金は一度県外に住み大郷に在住することが条件だ。県庁周辺が地元でも一度県外に出て現住所が大郷なら問題はない。
大郷も県北だが、大郷は大郷と言われる事が多いので『県北』になんとなく引っかかり、投稿を遡った。投稿からは県外に出た様子が窺えない。彼女たちの出身短大名は県北にある学校だった。その後もそのまま短大の近くに住んでいる様子…。
俺は居ても立っても居られなくなり走って自分の席に戻った。申請書類に記載された名前と、彼女たちのアカウント名を見比べる。
「……」
アカウント名と書類の下の名前が一致している。顔写真も同じだし、このアカウントと申請者達は同一人物だ。
しかし彼女たちは堂々としていて、まるで不正を隠すそぶりがない。申請していることを知らない、とか…?
だとするとこの会社、怪しすぎる。
俺は他の申請状況も調べた。この会社は中小企業の創業支援金、地産地消メニュー支援金なども受け取っている…。
それを確認してすぐ、石窯ピザ店に電話を掛けた。しかし、留守電になってしまって繋がらない。我慢できなくて、俺は自席で弁当を食べていた課長のところへ行った。
「課長、さっき来た方の申請書類がおかしくて、確認してきます!」
「え?!電話じゃだめなのか!?」
「繋がらなくて…。でもどうしても確認したくて、事業計画書を見せてもらってきます」
「ちょっとまてよ、どういうこと…?」
「この石窯ピザ店、複数名Uターン申請を出してるんですけど、店の女の子、ずっと県内在住です。地産地消メニューもおかしかったし、オーナーは東京在住なのに創業支援金を受給してます!」
「落ち着けって。それだけで決めつけるのは…」
「ええ、ですから事業計画書を貰ってきます!それを見て女の子達にも確認します!」
課長に頭を下げると、俺は申請書を持って役場を飛び出した。
もしこれが本当に不正受給なら許せない…!
だって結城は本当に家を買って大郷に住んでいるのに、住んでいないと批判されている。なのに住んでもいない人が助成金を貰っていて、それを会社が主導しているとしたら。真面目にやってる結城が報われないなんてひどすぎるし、不正に補助金を出すくらいなら、漆掻き保存会の補助金額を維持するべきだろう!
俺は正義感ではなく個人的な怒りから、石窯ピザ店に乗り込んだ。
今日は定休日のようだったが、中に明かりが見えたので声をかけると先ほどの店長が出てきた。
「今日はお休みなんですけど…。あれ…?」
店長は俺を覚えていたらしい。いつもの作業着と、身分証をつけてきて良かった。
「私、大郷町役場の黒澤です。先ほど提出いただいた書類で確認がありまして」
「はあ…」
身分証を見ながら、店長は表情を曇らせた。そして目を細めて嫌そうな声を出す。
「なんかの詐欺だったりします…?」
オレオレ詐欺を疑って、逃げるつもりか?俺は追加で名刺を差し出した。
「先ほどお会いしましたよね?これ、名刺とさっきの申請書です。不備はないとお伝えしたのですが、再度確認したところ、追加書類の提出が必要になりました。事業所計画書をいただけませんか?登記も含めて確認させてください」
「そんなこと急に言われても…」
「今あればお預かりしますが、私を疑うなら、郵送でも窓口に来ていただいてもかまいません。ただ、提出時期によってはお支払いが出来ない可能性があります」
「はぁ…?」
俺が補助金の申請を疑っていると分かると、彼は明らかに苛立った声を出した。
「ちょっと待って!確認しますから!」
そう言ってバタバタと店の中へ入っていった。店の奥からは、店長の話し声が聞こえる。そして二十分ぐらい待って、やや不安になってきた頃、俺の上司、地域振興課の課長がやって来た。
「黒澤~!何やってんだ!」
「何って、報告したはずですけど?課長こそなんでここに?!」
「ばかっ!そんなにすぐ行くやつがあるか!」
課長は俺の手を引っ張り、ちょうど戻ってきた店の店長に頭を下げて帰ろうとした。
「何でですか?!」
「いいから来い!」
俺は強制的に役場に連れ戻された。そのままミーティングルームに連行され、そこに地域振興課の部長と都市計画課の部長が俺を待ち構えていた。
「黒澤…!石窯ピザ店のオーナーからクレームがきたぞ!お前、いきなり店に行くなんてどういうつもりだ?!」
怒りを露わに俺を叱りつけたのは、都市計画課の部長だった。すると店長が電話で話していたのは、こいつ?
「そうだ。まだ不正だって決まったわけでもないのに、犯人扱いしたらしいじゃねーか!」
俺の直属の上司は追随して、俺を叱った。少なくとも課長には話して出かけたし、三人に詰め寄られても納得がいかなかったので、俺は言い返した。
「課長には話しましたが、Uターン申請を出している店の女の子、ずっと県内に住んでいるんです。でも、まだ証拠不十分なので不正受給だとは言っていません。事業計画書を出して欲しいといっただけです」
直属の上司である地域振興課の部長は、眉間に皺を寄せ、イライラした様子で俺を睨んだ。
「同じことだろうが…!もう二度とこんな事するな!申請書類は俺に渡せ。俺が処理する!」
「不正かもしれないのに確認もしないで助成金を支払うってことですか?それって下手したら背任じゃないですか?」
「黙れ!」
俺と地域振興課の部長のやり取りが気に入らなかったらしい都市計画課の部長は、ばん、と机をたたいた。俺は思わず、ビクッと縮こまる。
「黒澤、それを言ったら漆掻き保存会の代表なんかやって、副業禁止の職務規定違反な上に、補助金まで貰って、お前も背任だろうが!」
「漆掻き保存会の代表は兼業届を出しましたし、もちろん報酬もなし。それに俺が代表になってからは補助金を受け取ってません!」
「口答えするな!お前、自分で何をやってるか分かってるのか?!」
ついに都市計画課の部長が俺に掴みかかる勢いで近づいてきた。あまりにもすごい剣幕で、俺は思わず後退った。すると、怯えた様子を見透かされて、持っていた書類を取り上げられてしまう。
「あ…っ!」
申請書を取り上げると三人は、俺をジロリと一瞥し出て行く。
「菊池部長~、申し訳ありませんでした~」
「申し訳ありません!あいつ、根暗で真面目で、悪いやつじゃないんですけどね…」
ミーティングルームの外で俺の直属の上司たちが必死に、都市計画課の菊池部長に詫びを入れている声が聞こえた。

