チケット購入者には会場とイベント内容の変更を通知したが、キャンセルの申し出はほとんどなく、むしろ追加販売したチケットも完売するほどの盛況ぶりだった。
そしてイベント当日は天気に恵まれ、十二月中旬とは思えないほど暖かい日となった。
「えっ、何これ…?!」
「大郷のゆるキャラ、地蔵尊だよ~」
「かわい~…!」
突貫で作ったらしいその着ぐるみは、ぱっと見、大きすぎる大仏。でも、顔がカラフルでコミカルだ。俺が可愛いというと、中の人は弾んだ声を出す。
「正式な大郷のゆるキャラは借りられなくて、突貫でつくったんだよ。正直な黒澤くんに褒められるなんて嬉しいな~」
「結城さん、今日はずっとその格好ですか?」
「休憩しつつ、肝試しになったらお化けになったりとか」
公職選挙法の事前活動に当たらないよう、結城は着ぐるみを着て、顔出しはしないようだ。
午後三時、司会と漆塗りの講師、ゆるキャラを着た結城たち三人は公園に作った簡易ステージで笑いを交えつつ漆塗り体験の説明を始めた。
ステージの向こうに折りたたみ椅子と机が並べられていて参加者がランダムに座っている。俺は個別に困っていそうな人に声をかけた。
すると、見覚えのある女性二人と目が合う。
「あの~、この動画の人ですよね?」
「え、は、はい…」
「今日結城さんはいないんですか?」
ステージのスクリーンでは、アレルギーなどで参加しない人のために結城が撮った俺の漆掻きの動画が流れている。それは結城のSNSにもアップされたので、彼女たちは俺と結城が知り合いだと気付いたようだ。
声をかけてきた女性達には、俺も見覚えがあった。結城と行ったオシャレな石窯ピザ屋の店員だ。
「結城さんは、今日はいませんね」
「えー?SNSにイベントのこと載せてたから来てると思ったのに。残念~!」
本当はゆるキャラになって参加しているのだが、事前活動対策でいるとは言えない。
「じゃあ今度、別で飲みに行きません?お兄さんも一緒に2、2で!人数もちょうどいいし~」
「結城さん職場、県庁の辺りですよね?今度そっちで飲みませんか?私達その辺りのお店詳しいですよ~」
「えーと…」
「SNSこれなんで、フォローしてください!フォロバしますから!」
俺、婆さん達よりこういう若い女性が苦手かもしれない。困惑していると、どこからともなく大郷地蔵尊がやって来た。身振り手振りで、こっちに来いと言っている。
俺はすみません、と言って頭を下げてその場を離れた。
また、結城に助けられてしまった。
「ありがとう」
「……あいつら、なんだって?」
9.6mの大郷地蔵尊を模したゆるキャラ着ぐるみは長身の結城が着られるほど大きく、中に入ると声がくぐもって聞き取りづらい。
「結城さんと飲みに行きたいって」
「……それだけ?」
俺が頷くと大郷地蔵尊はまたステージへ戻って行った。
それにしても、結城が『あいつら』と言ったのはちょっと意外だった。ひょっとして焼きもちを焼いたのかもと期待したが、ゆるキャラだと表情が読めない。
その後は特に何もなく、体験会は無事終わった。終了後絵付けしたものを回収して、硬化して郵送するために整理していると、結城がやって来た。
「黒澤くん、お化け役が足りないみたいで。手伝ってくれない?」
「お化け?」
漆塗り体験の後は食事を用意しているのだが、そこで仲良くなった希望者は滝に続くトンネルでの肝試しに参加できる。吊り橋効果で、カップルを量産する目論見だ。
肝心な、脅かし役が足りないらしい。他の会員に後片づけを任せて、俺は急遽お化け役を手伝うことになった。
着替え用のワンボックスカーで白くてシンプルな布を被り、丸い目と口だけが黒く抜かれた、愛嬌のあるおばけ姿に変身する。
「黒澤くん、かわい~」
「結城さんも、かわいい~」
笑ったつもりだが、お化けになってしまって結城がどんな顔をしているかは分からない。
「じゃ、いこう」
俺は結城の後について、持ち場に急いだ。
俺たちはトンネルの途中にある祠の脇道で待機して、来る人を脅かす係らしい。
人が来るたび、何組も脅かした。
可愛らしいお化けだが突然、暗い中出てくるとめちゃくちゃ怖いらしい。何組かのカップル誕生の瞬間に二人で立ち会った。
ちょっとした達成感を味わい、おばけのまま結城と笑い合う。
そして、しばらくすると人が来なくなった。
「人が途切れたね」
「もう終わりなのかも…」
今日は結城が取り付けた大郷観光組合の支援で最後に花火を上げることになっている。
そろそろ時間だからみんな、この先の展望台に集まっているのだろう。
「黒澤くん、せっかくだから花火見ない?」
「えっでも、人が来たら…おばけが…」
「この脇道の先、滝の裏側からも花火は見えるんだよ。すぐ戻れるから行こう」
俺たちはお化けを脱いで肩から羽織ると脇道を通って滝の裏側へ向かった。脇道には人が来る想定をしておらず、かなり暗い。
俺は肩に掛けているお化けの裾を踏んで躓いてしまった。
「わっ?!」
「黒澤くん、大丈夫?!」
結城は転びかけた俺の手を握った。そしてそのまま慎重に歩いていく。
手を繋いだまま進んでいくと、だんだん滝の音が大きくなってきた。
脇道を抜けると、滝が見えてくる。
するとちょうど、花火が上がった。
滝の真下から見上げると、水しぶき越しに花火がにじんで広がる。滝の重い水音と、花火の破裂音が重なり、現実が少しだけ遠のいた。
ぼんやり花火を見上げていたが、ふと結城が自分を見ていることに気がつく。
「結城さん…?」
なんだか結城がいつもと違うような気がして、緊張してしまい少し掠れた声が出た。結城は握っていた手に力をこめる。
「黒澤くん…」
「…はい…?」
「今日、ありがとう…。…」
「いえ…」
花火の音のせいか、結城は途切れ途切れに話す。それが、緊張しているように感じられて、俺まで緊張してくる。
この緊張感、ひょっとして…?
結城が俺の手をぎゅっと握ったその時、一際大きい花火が上がった。大きくて立派な花火だったのに、結城の目に映るそれはゆらゆらと儚げに消えていく。
「あのさ、俺…」
結城はもう一度手を握ってから、息を吸い込んだ。
まさか、これって…?!
俺は胸がドキドキして、張り裂けそうだった。さっきも結城は女の子達に嫉妬していた。
まさか。まさか…、俺、結城に、告白される……?!
「来年、町長選に出る。年が明けたら正式に立候補を表明する」
「へ……?」
結城の顔を見ると、『ようやく言えた』みたいな、どこか安堵したような顔をしている。
俺は完全に、拍子抜けした。
「それ、知ってるけど」
「え?!黒澤くんに一番に言おうと思ってたから、誰にも言ってないけど?!」
そうなんだ…。
でも東京にいった時も酔っ払って自分の選挙を応援してくれと言っていた。それに新道の駅構想反対派をまとめたり街コン企画したり、結城の活動はわかりやすい。誰だって出馬するつもりだと察するだろう。
俺は結城の告白内容に、物凄くがっかりした。
先日動画を撮った時も俺が『推し』だと匂わせがあったし、ひょっとしてと都合よく解釈してしまったんだ。
恥ずかしい…。
「黒澤くん、当選したら一緒に大郷漆達磨に目を入れてほしい!」
「結城さん、大郷漆達磨なんて、ないですよ。あってもすごく高額です」
「え…っ?」
「それに選挙ってたくさん人が集まるじゃないですか。いくらPRでもそんな人前に出るの、好きじゃないし…」
俺は分かっていたはずなのに、ひょっとして、と思った自分がいやになって結城の顔を見ることができなかった。
早く、この場から逃げ出したい…!
「結城さん、戻りましょう」
「黒澤くん、ちょっと待って!」
俺は結城を待たずにさっさと前を歩いていく。すると、前方からイベントスタッフらしき男性が走って来た。
「お疲れ様です!もう全員通りましたので、戻って大丈夫です!」
「分かりました」
俺は結城を置いて、先に公園の広場に戻った。広場ではもう片付けがほぼ終わっている。
一人で怒って戻ってきてしまい、まだお化けの衣装を羽織ったままなことに気がついた。体験会の片付けも終わったようだったので俺は着替えるため、スタッフ用のワンボックスカーへ向かった。
車の前にスタッフがいたので、声をかける。
「衣装、返しに来ました」
「お疲れ様です!中で着替えてください。汗をふくタオルもありますから」
「ありがとうございます」
ワンボックスカーの中はしーんとしていて、誰もいない。
お化けを脱いで汗を拭いていると、後部座席に結城が着ていた大郷地蔵尊の着ぐるみが置いてあることに気がついた。しかもちゃんと椅子に座らされている。
俺は少し、感傷的になってしまい、隣に腰を下ろしてもたれかかった。
「さっき俺、勘違いして不機嫌になってた。結城さんに変に思われたかも。最悪…」
花火がキラキラしたところで手を握って、告白されるかもと期待してしまったから、落胆が大きかった。でも、「応援してます」くらい言えばよかった。
後悔から俺は大郷地蔵尊に顔を埋める。ゆるキャラは案外固いしっかりしたつくりだったから、少しだけホッとした。
「俺たちが両想いなんて、そんなこと、あるわけないのに…」
口に出したら悲しくなって、立ち上がるとすぐに車を降りる。
降りたところでイベント会社の大和田さんに声をかけられた。
「あ、黒澤くん!お疲れ様!体験会も盛況だったね~!」
「こちらこそありがとうございます!」
「お化けまでやって貰って助かっちゃった!そうだ、車に結城くんいたでしょ?」
「え…?」
車には、大郷地蔵尊しかいなかったけど…。
「このあと、閉会式で根本町長が挨拶してくれることになって。大郷地蔵も一緒に出るから準備してるはずなんだけど…」
町長が挨拶…?!あんなに邪魔したのに、成功しそうになったら挨拶に来るのかよ!ずいぶんちゃっかりしてる…。
いや、待て。そうじゃない。車に、結城がいた?!
「あ、きたきた!結城くん出番だよ…!」
大和田さんが駆け寄ると、大郷地蔵尊は俺の方をチラリと見た。しかしゆるキャラなので、本当に見ているかは分からない。
「あれ?結城くん、汗すごいね?やっぱこれ、キツイよね?大丈夫?水飲んだ?」
大和田さんは大郷地蔵尊の背中をさすった。大郷地蔵尊はこくんとかわいく頷く。
呼びかけに頷いてるってことは、大郷地蔵尊の中の人は結城で間違いない。しかも俺が車を降りた直後、出て来た。それって、つまり。
ーー聞かれた?!さっきの俺の独り言、聞かれてた…?!ついでに着替えも見られてた…?!
「あと少しだからがんばって!さー、いこー!」
街コンの閉会式が始まった。
この閉会式は後に、町長選挙の幕開けとして後に語り継がれる事になる。
奇しくもその日は、俺が人生初の告白をした日になってしまった。
そしてイベント当日は天気に恵まれ、十二月中旬とは思えないほど暖かい日となった。
「えっ、何これ…?!」
「大郷のゆるキャラ、地蔵尊だよ~」
「かわい~…!」
突貫で作ったらしいその着ぐるみは、ぱっと見、大きすぎる大仏。でも、顔がカラフルでコミカルだ。俺が可愛いというと、中の人は弾んだ声を出す。
「正式な大郷のゆるキャラは借りられなくて、突貫でつくったんだよ。正直な黒澤くんに褒められるなんて嬉しいな~」
「結城さん、今日はずっとその格好ですか?」
「休憩しつつ、肝試しになったらお化けになったりとか」
公職選挙法の事前活動に当たらないよう、結城は着ぐるみを着て、顔出しはしないようだ。
午後三時、司会と漆塗りの講師、ゆるキャラを着た結城たち三人は公園に作った簡易ステージで笑いを交えつつ漆塗り体験の説明を始めた。
ステージの向こうに折りたたみ椅子と机が並べられていて参加者がランダムに座っている。俺は個別に困っていそうな人に声をかけた。
すると、見覚えのある女性二人と目が合う。
「あの~、この動画の人ですよね?」
「え、は、はい…」
「今日結城さんはいないんですか?」
ステージのスクリーンでは、アレルギーなどで参加しない人のために結城が撮った俺の漆掻きの動画が流れている。それは結城のSNSにもアップされたので、彼女たちは俺と結城が知り合いだと気付いたようだ。
声をかけてきた女性達には、俺も見覚えがあった。結城と行ったオシャレな石窯ピザ屋の店員だ。
「結城さんは、今日はいませんね」
「えー?SNSにイベントのこと載せてたから来てると思ったのに。残念~!」
本当はゆるキャラになって参加しているのだが、事前活動対策でいるとは言えない。
「じゃあ今度、別で飲みに行きません?お兄さんも一緒に2、2で!人数もちょうどいいし~」
「結城さん職場、県庁の辺りですよね?今度そっちで飲みませんか?私達その辺りのお店詳しいですよ~」
「えーと…」
「SNSこれなんで、フォローしてください!フォロバしますから!」
俺、婆さん達よりこういう若い女性が苦手かもしれない。困惑していると、どこからともなく大郷地蔵尊がやって来た。身振り手振りで、こっちに来いと言っている。
俺はすみません、と言って頭を下げてその場を離れた。
また、結城に助けられてしまった。
「ありがとう」
「……あいつら、なんだって?」
9.6mの大郷地蔵尊を模したゆるキャラ着ぐるみは長身の結城が着られるほど大きく、中に入ると声がくぐもって聞き取りづらい。
「結城さんと飲みに行きたいって」
「……それだけ?」
俺が頷くと大郷地蔵尊はまたステージへ戻って行った。
それにしても、結城が『あいつら』と言ったのはちょっと意外だった。ひょっとして焼きもちを焼いたのかもと期待したが、ゆるキャラだと表情が読めない。
その後は特に何もなく、体験会は無事終わった。終了後絵付けしたものを回収して、硬化して郵送するために整理していると、結城がやって来た。
「黒澤くん、お化け役が足りないみたいで。手伝ってくれない?」
「お化け?」
漆塗り体験の後は食事を用意しているのだが、そこで仲良くなった希望者は滝に続くトンネルでの肝試しに参加できる。吊り橋効果で、カップルを量産する目論見だ。
肝心な、脅かし役が足りないらしい。他の会員に後片づけを任せて、俺は急遽お化け役を手伝うことになった。
着替え用のワンボックスカーで白くてシンプルな布を被り、丸い目と口だけが黒く抜かれた、愛嬌のあるおばけ姿に変身する。
「黒澤くん、かわい~」
「結城さんも、かわいい~」
笑ったつもりだが、お化けになってしまって結城がどんな顔をしているかは分からない。
「じゃ、いこう」
俺は結城の後について、持ち場に急いだ。
俺たちはトンネルの途中にある祠の脇道で待機して、来る人を脅かす係らしい。
人が来るたび、何組も脅かした。
可愛らしいお化けだが突然、暗い中出てくるとめちゃくちゃ怖いらしい。何組かのカップル誕生の瞬間に二人で立ち会った。
ちょっとした達成感を味わい、おばけのまま結城と笑い合う。
そして、しばらくすると人が来なくなった。
「人が途切れたね」
「もう終わりなのかも…」
今日は結城が取り付けた大郷観光組合の支援で最後に花火を上げることになっている。
そろそろ時間だからみんな、この先の展望台に集まっているのだろう。
「黒澤くん、せっかくだから花火見ない?」
「えっでも、人が来たら…おばけが…」
「この脇道の先、滝の裏側からも花火は見えるんだよ。すぐ戻れるから行こう」
俺たちはお化けを脱いで肩から羽織ると脇道を通って滝の裏側へ向かった。脇道には人が来る想定をしておらず、かなり暗い。
俺は肩に掛けているお化けの裾を踏んで躓いてしまった。
「わっ?!」
「黒澤くん、大丈夫?!」
結城は転びかけた俺の手を握った。そしてそのまま慎重に歩いていく。
手を繋いだまま進んでいくと、だんだん滝の音が大きくなってきた。
脇道を抜けると、滝が見えてくる。
するとちょうど、花火が上がった。
滝の真下から見上げると、水しぶき越しに花火がにじんで広がる。滝の重い水音と、花火の破裂音が重なり、現実が少しだけ遠のいた。
ぼんやり花火を見上げていたが、ふと結城が自分を見ていることに気がつく。
「結城さん…?」
なんだか結城がいつもと違うような気がして、緊張してしまい少し掠れた声が出た。結城は握っていた手に力をこめる。
「黒澤くん…」
「…はい…?」
「今日、ありがとう…。…」
「いえ…」
花火の音のせいか、結城は途切れ途切れに話す。それが、緊張しているように感じられて、俺まで緊張してくる。
この緊張感、ひょっとして…?
結城が俺の手をぎゅっと握ったその時、一際大きい花火が上がった。大きくて立派な花火だったのに、結城の目に映るそれはゆらゆらと儚げに消えていく。
「あのさ、俺…」
結城はもう一度手を握ってから、息を吸い込んだ。
まさか、これって…?!
俺は胸がドキドキして、張り裂けそうだった。さっきも結城は女の子達に嫉妬していた。
まさか。まさか…、俺、結城に、告白される……?!
「来年、町長選に出る。年が明けたら正式に立候補を表明する」
「へ……?」
結城の顔を見ると、『ようやく言えた』みたいな、どこか安堵したような顔をしている。
俺は完全に、拍子抜けした。
「それ、知ってるけど」
「え?!黒澤くんに一番に言おうと思ってたから、誰にも言ってないけど?!」
そうなんだ…。
でも東京にいった時も酔っ払って自分の選挙を応援してくれと言っていた。それに新道の駅構想反対派をまとめたり街コン企画したり、結城の活動はわかりやすい。誰だって出馬するつもりだと察するだろう。
俺は結城の告白内容に、物凄くがっかりした。
先日動画を撮った時も俺が『推し』だと匂わせがあったし、ひょっとしてと都合よく解釈してしまったんだ。
恥ずかしい…。
「黒澤くん、当選したら一緒に大郷漆達磨に目を入れてほしい!」
「結城さん、大郷漆達磨なんて、ないですよ。あってもすごく高額です」
「え…っ?」
「それに選挙ってたくさん人が集まるじゃないですか。いくらPRでもそんな人前に出るの、好きじゃないし…」
俺は分かっていたはずなのに、ひょっとして、と思った自分がいやになって結城の顔を見ることができなかった。
早く、この場から逃げ出したい…!
「結城さん、戻りましょう」
「黒澤くん、ちょっと待って!」
俺は結城を待たずにさっさと前を歩いていく。すると、前方からイベントスタッフらしき男性が走って来た。
「お疲れ様です!もう全員通りましたので、戻って大丈夫です!」
「分かりました」
俺は結城を置いて、先に公園の広場に戻った。広場ではもう片付けがほぼ終わっている。
一人で怒って戻ってきてしまい、まだお化けの衣装を羽織ったままなことに気がついた。体験会の片付けも終わったようだったので俺は着替えるため、スタッフ用のワンボックスカーへ向かった。
車の前にスタッフがいたので、声をかける。
「衣装、返しに来ました」
「お疲れ様です!中で着替えてください。汗をふくタオルもありますから」
「ありがとうございます」
ワンボックスカーの中はしーんとしていて、誰もいない。
お化けを脱いで汗を拭いていると、後部座席に結城が着ていた大郷地蔵尊の着ぐるみが置いてあることに気がついた。しかもちゃんと椅子に座らされている。
俺は少し、感傷的になってしまい、隣に腰を下ろしてもたれかかった。
「さっき俺、勘違いして不機嫌になってた。結城さんに変に思われたかも。最悪…」
花火がキラキラしたところで手を握って、告白されるかもと期待してしまったから、落胆が大きかった。でも、「応援してます」くらい言えばよかった。
後悔から俺は大郷地蔵尊に顔を埋める。ゆるキャラは案外固いしっかりしたつくりだったから、少しだけホッとした。
「俺たちが両想いなんて、そんなこと、あるわけないのに…」
口に出したら悲しくなって、立ち上がるとすぐに車を降りる。
降りたところでイベント会社の大和田さんに声をかけられた。
「あ、黒澤くん!お疲れ様!体験会も盛況だったね~!」
「こちらこそありがとうございます!」
「お化けまでやって貰って助かっちゃった!そうだ、車に結城くんいたでしょ?」
「え…?」
車には、大郷地蔵尊しかいなかったけど…。
「このあと、閉会式で根本町長が挨拶してくれることになって。大郷地蔵も一緒に出るから準備してるはずなんだけど…」
町長が挨拶…?!あんなに邪魔したのに、成功しそうになったら挨拶に来るのかよ!ずいぶんちゃっかりしてる…。
いや、待て。そうじゃない。車に、結城がいた?!
「あ、きたきた!結城くん出番だよ…!」
大和田さんが駆け寄ると、大郷地蔵尊は俺の方をチラリと見た。しかしゆるキャラなので、本当に見ているかは分からない。
「あれ?結城くん、汗すごいね?やっぱこれ、キツイよね?大丈夫?水飲んだ?」
大和田さんは大郷地蔵尊の背中をさすった。大郷地蔵尊はこくんとかわいく頷く。
呼びかけに頷いてるってことは、大郷地蔵尊の中の人は結城で間違いない。しかも俺が車を降りた直後、出て来た。それって、つまり。
ーー聞かれた?!さっきの俺の独り言、聞かれてた…?!ついでに着替えも見られてた…?!
「あと少しだからがんばって!さー、いこー!」
街コンの閉会式が始まった。
この閉会式は後に、町長選挙の幕開けとして後に語り継がれる事になる。
奇しくもその日は、俺が人生初の告白をした日になってしまった。

