桜の咲くころに笑う。

 咲也が来るもの拒まずなのは知っていた。だから告白したんだけど、まさか男でもオッケーがもらえるなんて、夢にも思わず……。

 彼女と別れたと本人から聞かされて、その場の勢いの結果だ。勢いでも、血迷いでも、俺は全然問題ない。なんせ、こちとら二年も片思いしてるんだからな。

 一カ月以上続いたことがないという咲也のお付き合い。意外と真面目なのか、彼女が途絶えたことのない余裕からなのか、二股なんてものはしたことがないらしい。

 だったら俺の目標は手堅く、二ヶ月続けること。少なくとも二ヶ月間は咲也を独占できるように。そのためにも俺の作戦はこうだ。

 『咲也を自由にさせる!』


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 「永桜ー?」

 「はいはい?」

 「今日さ、愛実がどうしても俺と一緒に帰んなきゃ死ぬって言うから、いい?」

 咲也の言葉に、一瞬だけ喉が詰まる。でも俺は、顔にはりつけた笑顔を絶対に崩さない。

 「そりゃ、大変だ。はりきって人命救助してこーい!」

 「永桜、ありがとね」

 にこっと気怠げに笑う咲也は、はっきり言って赤ちゃんだ。世界一可愛くて、宇宙一かっこいい。それに、仏よりも優しすぎるだろ。

 教室を出ていく咲也にひらりと手を振る。

 俺の頭にひじを乗せて、パック牛乳をズコーと吸い込んでいた友紀(ともき)が、呆れたような声を出した。

 「死ぬ、ねぇ。あいつ、死ぬって言われたらなんでも言うこと聞くのかな」

 「かもな。咲也は優しいから。でも、さすがに自分の命が危なくなるようなことはしないだろ」

 友紀がため息をついて、俺の隣の椅子に座り直す。

 「優しいのか?俺は永桜の方が百倍……いや、千倍は優しいと思うぞ。あいつの目、たまに怖い時あるもん」

 「んなわけ!今だってクラス違うのにわざわざ報告に来てさぁ、律儀だろ?」

 「恋は盲目ってやつかぁ。俺には浮気の報告にしか聞こえなかったけど」

 天井を仰ぐ友紀の肩をポンポンとたたく。
 牛乳大好き友紀くんの身長は俺より十センチも高いくせに、まだまだおこちゃまなんだよな。

 「浮気したらしたって言うよ。咲也は嘘つけねーんだから」

 友紀は俺を横目に見ると、降参というように両手を挙げた。

 「ま、なんかあったら俺が慰めてやるよ」

 「いらねーって!」

 友紀の腹にパンチをお見舞いする。
 それから、チクチクする胸の痛みには気づかないふりをして、俺はニカッと笑ってみせた。