——不安だった。
おばあちゃんがこれを嫌と言ったらどうしよう。
こんな拙い刺繍が施されたハンカチを、おばあちゃんは受け取ってくれるだろうか。
おばあちゃんに好きと言ってもらえるだろうか。
おばあちゃんに、喜んでもらえるだろうか。
おばあちゃんへのあこがれを消すことはできなかった。
おばあちゃんみたいな雑貨を作って見たくて。
それをプレゼントすれば、喜んでもらえないかなと思ったんだ。
*
女性は羽夜の手にあるものを丁寧な手つきでとった。
——それは、ハンカチだった。
白地のハンカチだ。
周囲を縁取るのは藤色のレースだ。
レースはもともとついていたんだろう。
一つ手が加えられているのは、ハンカチの一角。
桃色の糸で、刺繍が施されているのだ。
拙い刺繍だ。
かなりガタついているし、玉結びもうまくできていない。
でも、女性にはわかった。
——これは、羽夜が一生懸命に縫ったものだと。
羽夜は、女性の名前、灯絵のイニシャル、Hを刺繍していた。
所々に蝶の様なものが見える。
あとは花なども。
「気に入ってもらえるかわからないけど……おばあちゃん、花とか蝶とか好きそうだったから。Hよりかはそっちのほうがやりやすかったから、まずハンカチの素材になれようと思って、それを縫ってみたの。……やっぱり、下手だよね」
羽夜は少ししょんぼりとしたような表情で、灯絵の反応を伺った。
灯絵はしばらくハンカチをじっと見つめていた。
しかしやがて、それを丁寧な手つきで胸元にあて、自分ごと抱くようにして、くしゃりと顔を歪めた。
「ありがとう、羽夜。うれしいよ」
———まさか、自分と同じように、雑貨を作ってくれるなんて思わなかった。
羽夜はどちらかと言えば活発なほうで、運動とかが昔から好きだった。
こういうちまちまと手を動かすことを、羽夜は苦手としていた。
うまくいかないことが多かったからだ。
少し不器用で、でもやりたくて、失敗して、落ち込んで。
その繰り返しだったのに。
こんな刺繍という、難しいものに挑戦してくれた。
それが、すごくうれしかった。
灯絵はHの刺繡を撫でる。
———ああ……
私のために、縫ってくれた。
偶然目に入った羽夜の指には、いくつも小さな絆創膏がまかれていた。
羽夜は、刺繍をする際に自分の指に針を何度も、何度もさしてしまったのだろう。
それでも頑張って、これを縫い上げてくれたのだ。
「本当に、ありがとうね、羽夜」
灯絵は心からの笑みを浮かべて、そう言った。
羽夜はそれをみて、ほっと胸をなでおろし、灯絵の近くに置いてあった椅子に座った。
羽夜は、灯絵を何かねだりたいように見える表情で見つめる。
「おばあちゃん、私に刺繍、教えて。編み物とか、ぬいぐるみとかも……」
「おや、雑貨に興味があるのかい?」
「うん。私、おばあちゃんの雑貨、大好きなの」
羽夜は嬉しそうに笑った。
握り合わせた手を胸元にあてて、息を吐く。
「辛いことがある時、もやもやするとき、おばあちゃんの雑貨を見てたら元気になれた。ほかにも、おばあちゃんはお洋服とかお菓子とかいろいろ送ってくれたでしょう? それがね、私はすごくうれしかったの。頑張ろうって思えたんだ。だから……私も、人にそう思わせるような雑貨を作ってみたいなぁって、思って」
羽夜の言葉を聞いて、灯絵はさらにうれしそうな微笑みを深めた。
そして、編み物のかごごと手に取った。
羽夜はすばやくみぃに手を伸ばし、抱き上げた。
灯絵は膝に置いたかごの中から、編み物に使う棒と毛糸を取り出した。
「今はマフラーを作っているんだ。だから、いっしょに編まない?」
「やってみたい!」
「じゃあ、まずは下準備からね」
「うん!」
羽夜は灯絵の揺り椅子のほうに椅子を近づけると、灯絵に教えてもらいながら、編み物を始めた。
二人の楽しそうな会話が、部屋の中を満たす。
羽夜の膝の上で目を覚ましたみぃは、お互いに嬉しそうな微笑みを浮かべあっている二人を見て、目を細めながら、
「みゃああお」
と鳴いた。



