——こん、こん。
控えめなノックが鳴った。
棚の中から編み物に使う道具を探していた女性は、顔を上げる。
彼女が何かを言う前に、ぎぃ、と音を立てて、少しだけドアが押された。
狭い隙間から女性のほうをうかがうのは、中学生くらいの少女。
女性の孫、羽夜だ。
肩くらいの髪をポニーテールに結んで、大きくくりっとした瞳は何かを探すように動く。
頬は薄桃色に染まり、少し日焼けしている顔を彩る。
ガーリーな雰囲気と大人っぽい雰囲気を兼ね備えた、フリルを多くあしらう白シャツに桃色のカーディガンを合わせ、細い足が映える灰色のチェックのミニスカートをはいて、ベルトでウェストを締めている。
膝までの白いハイソックスを履いて、お気に入りの、女性からプレゼントされたアンクレットを足に嵌め、女性が用意しておいたもこもこした可愛いスリッパに、足を突っ込んでいる。
「おばあちゃん、入ってもいい?」
「うん、いいよ。おいで」
女性は優しく微笑んでそう言った。
羽夜は嬉しそうな笑みを浮かべると、ドアを開けて部屋の中に入ってきた。
女性はすべての編み物の道具を取り終え、それらを一つのかごに入れてもちあげる。
揺り椅子のほうに持ってきて、お盆の横に置く。
そして揺り椅子の上で寝ている三毛猫を抱き上げると、そのまま揺り椅子に座った。
「おばあちゃん、みぃは私がだっこするよ」
「おや、じゃあお願いしようかな」
女性は羽夜に三毛猫、みぃを手渡した。
みぃは羽夜の腕の中に移っても嫌な顔はせず、みぃあ、と変な鳴き声を上げ、少しもぞもぞと体を動かしたのちに眠ってしまった。
羽夜はその様子を見ながらふふっと笑い、辺りを見渡した。そして、椅子を持ってくる。
「隣いい?」
「ああ、もちろん」
女性の答えをきいて、羽夜は言ったとおりに腰かけた。
彼女は羽夜には構わずに、編み物を始める。
羽夜はポケットからスマホを取り出してしばらくそれを弄っていたが、やがてみぃを抱いたまま一度立ち上がって、女性の本が置かれている棚に歩いていった。
彼女が見ているのは、小説が並んでいる部分だ。
羽夜はしばらく背表紙に書かれている文字を見つめていたが、やがて女性のほうを振り向く。
「おばあちゃん、またお勧めの本を教えてよ」
「そうだねぇ、羽夜でも読めるのだと……星の王子様とかはどう? 少し難しいけれど、文章は簡単なはずだよ」
「わかった、ありがと」
羽夜は言われた通りに、星の王子様の本を探し当てた。
その少し焼けている表紙を、優しく撫でる。
それをみぃを抱いたまま器用にとって、椅子に戻る。
椅子に座ってみぃを自分の膝の上に置くと、その小説を読み始めた。
しばらく、女性も羽夜も何もしゃべらずにそれぞれの作業に没頭していた。
その時間を破ったのは、羽夜のスマホの通知音だった。
それに驚いたのか、みぃは羽夜の膝の上から飛び降りた。
羽夜はそれをみて苦笑しつつ、スマホの画面を開いた。
そして、あ、と声を上げる。
女性はその声に編む手を止めて、ゆっくりと首をかしげた。
「どうかした?」
「あ、えっと……」
とたん、羽夜は視線を泳がせる。
そして、作ったような笑みを浮かべて、
「ちょ、ちょっとお母さんに呼ばれちゃって……すぐ戻る!」
あわただしく椅子から立ち上がり、扉をバタンと閉め、スリッパの音を響かせながら立ち去って行った。
女性はそんなあわただしい羽夜の様子を見て目を瞬かせていたが、やがてふぅ、と息を吐いた。
しかし、そこには嫌そうな表情は浮かんでいない。
「羽夜も大きくなったねぇ」
羽夜がここに遊びに来たのは、一年ぶりくらいだ。
中学生に上がったころから少しずつ大人びていったが、進級したからか、一気に大人らしさが増していた。
それを密かに、女性は嬉しく感じていたのだ。
「さて、私はもう少しやろうかな」
女性は独り言をつぶやく。
すると、膝の上にみぃが飛び乗ってきた。
ふふ、と女性は笑い、みぃを膝の上に乗せたまま、編み物を再開した。
控えめなノックが鳴った。
棚の中から編み物に使う道具を探していた女性は、顔を上げる。
彼女が何かを言う前に、ぎぃ、と音を立てて、少しだけドアが押された。
狭い隙間から女性のほうをうかがうのは、中学生くらいの少女。
女性の孫、羽夜だ。
肩くらいの髪をポニーテールに結んで、大きくくりっとした瞳は何かを探すように動く。
頬は薄桃色に染まり、少し日焼けしている顔を彩る。
ガーリーな雰囲気と大人っぽい雰囲気を兼ね備えた、フリルを多くあしらう白シャツに桃色のカーディガンを合わせ、細い足が映える灰色のチェックのミニスカートをはいて、ベルトでウェストを締めている。
膝までの白いハイソックスを履いて、お気に入りの、女性からプレゼントされたアンクレットを足に嵌め、女性が用意しておいたもこもこした可愛いスリッパに、足を突っ込んでいる。
「おばあちゃん、入ってもいい?」
「うん、いいよ。おいで」
女性は優しく微笑んでそう言った。
羽夜は嬉しそうな笑みを浮かべると、ドアを開けて部屋の中に入ってきた。
女性はすべての編み物の道具を取り終え、それらを一つのかごに入れてもちあげる。
揺り椅子のほうに持ってきて、お盆の横に置く。
そして揺り椅子の上で寝ている三毛猫を抱き上げると、そのまま揺り椅子に座った。
「おばあちゃん、みぃは私がだっこするよ」
「おや、じゃあお願いしようかな」
女性は羽夜に三毛猫、みぃを手渡した。
みぃは羽夜の腕の中に移っても嫌な顔はせず、みぃあ、と変な鳴き声を上げ、少しもぞもぞと体を動かしたのちに眠ってしまった。
羽夜はその様子を見ながらふふっと笑い、辺りを見渡した。そして、椅子を持ってくる。
「隣いい?」
「ああ、もちろん」
女性の答えをきいて、羽夜は言ったとおりに腰かけた。
彼女は羽夜には構わずに、編み物を始める。
羽夜はポケットからスマホを取り出してしばらくそれを弄っていたが、やがてみぃを抱いたまま一度立ち上がって、女性の本が置かれている棚に歩いていった。
彼女が見ているのは、小説が並んでいる部分だ。
羽夜はしばらく背表紙に書かれている文字を見つめていたが、やがて女性のほうを振り向く。
「おばあちゃん、またお勧めの本を教えてよ」
「そうだねぇ、羽夜でも読めるのだと……星の王子様とかはどう? 少し難しいけれど、文章は簡単なはずだよ」
「わかった、ありがと」
羽夜は言われた通りに、星の王子様の本を探し当てた。
その少し焼けている表紙を、優しく撫でる。
それをみぃを抱いたまま器用にとって、椅子に戻る。
椅子に座ってみぃを自分の膝の上に置くと、その小説を読み始めた。
しばらく、女性も羽夜も何もしゃべらずにそれぞれの作業に没頭していた。
その時間を破ったのは、羽夜のスマホの通知音だった。
それに驚いたのか、みぃは羽夜の膝の上から飛び降りた。
羽夜はそれをみて苦笑しつつ、スマホの画面を開いた。
そして、あ、と声を上げる。
女性はその声に編む手を止めて、ゆっくりと首をかしげた。
「どうかした?」
「あ、えっと……」
とたん、羽夜は視線を泳がせる。
そして、作ったような笑みを浮かべて、
「ちょ、ちょっとお母さんに呼ばれちゃって……すぐ戻る!」
あわただしく椅子から立ち上がり、扉をバタンと閉め、スリッパの音を響かせながら立ち去って行った。
女性はそんなあわただしい羽夜の様子を見て目を瞬かせていたが、やがてふぅ、と息を吐いた。
しかし、そこには嫌そうな表情は浮かんでいない。
「羽夜も大きくなったねぇ」
羽夜がここに遊びに来たのは、一年ぶりくらいだ。
中学生に上がったころから少しずつ大人びていったが、進級したからか、一気に大人らしさが増していた。
それを密かに、女性は嬉しく感じていたのだ。
「さて、私はもう少しやろうかな」
女性は独り言をつぶやく。
すると、膝の上にみぃが飛び乗ってきた。
ふふ、と女性は笑い、みぃを膝の上に乗せたまま、編み物を再開した。



