プレゼント・フォー・ユー!

 ここは、田んぼが広がる田舎の地域。

 黄金色の稲穂が泥水の上を覆いつくし、抜けるような真っ青な空がさらにその上を覆う。

 真っ青な空には、真っ白な千切れ雲が各所に浮かび、それが風に乗って流されていく。

 遠くに見える山肌は、秋へと移り行くせいか、赤や茶色が見て取れるようになっている。

 道を行く車や人々はほぼいないそこに、ただぽつんと、一件の洋風の家が立っている。

 敷地は広く、まるで物語に出てきそうな、かわいい外装をしていた。

 白い漆喰が塗られている壁のところどころに、煉瓦がはめ込まれている。

 煙突もある屋根は、赤茶の瓦がしかれている。


 そんな家の中から、家の外を見つめている、一匹の三毛猫が見えた。


「みゃーお」


 三毛猫は一度そう鳴くと、窓の外に向けていた視線を部屋のなかへと移した。

 しばらく何かを探すように首を動かしていたが、やがて、ガチャリと音が鳴って、ドアノブが回った。

 それを目ざとく聞きつけ、三毛猫は窓のへりからふたたびみゃあと鳴く。

 ドアが押し出されてはいってきたのは、老齢の女性だ。


 かなり白髪が混ざって灰色になっている長い髪は、緩くお団子に結われている。

 目じりは優し気に下がり、顔に刻まれたしわはむしろ親しみを持たせてくれる。

 タートルネックの白シャツに抹茶色のウールのカーディガンを羽織り、動きやすそうな黒のスラックスに白いスリッパをはいている。


 彼女はお盆の上に麦茶が入った二つのコップと和菓子を乗せて、もってきていた。
 
 女性は三毛猫がいる窓のほうへと歩いてきて、近くにあった大きめのサイドテーブルに、お盆をそっと置いた。

 そして、窓のへりから自分の存在を示すかのように鳴き続ける三毛猫の頭を、撫でてやる。
 
 女性が少しだけ手を広げると、三毛猫は迷わず飛び込んできた。

 それを受け止めた彼女は、三毛猫を抱くかたちにした。


「さあ、私は編み物でもしようかねぇ」


 のんびりとした、優しげな声がその口から紡がれた。

 彼女の顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいる。

 女性は三毛猫を窓の近くの揺り椅子の上に下ろした。

 三毛猫はしばらくその場でくるくると回っていたが、やがて居心地のいい場所を見つけたのか、丸くなる。

 あくびをする三毛猫を見て、女性はくっくと面白そうに笑った。


「えっと、どこにやったか。あぁ、あったあった」


 女性は、ある壁一面に設置されている棚のほうへと迷わず歩いていった。

 その棚には、いろいろなものが納められている。


 女性が好きだと思しき、少し日に焼けた文庫本の小説たち。

 漫画や雑誌が置かれているのは、彼女の子供たちの持ち物だろうか。

 編み物、刺繍、服作りから、料理、絵、アクセサリー作りまで、多種多様な作り方の本もずらりと肩を並べる。


 少し離れたスペースには、小鉢に植えられた観葉植物が置かれている。

 よくみると、観葉植物だけではなく、ラベンダーやカーネーションなどの花々や、多肉植物やサボテンなども置かれている。

 丁寧に手入れされているのか、病気になったそぶりもみせず、土も程よく湿っているようだ。

 一か所に固まって設置してあるのではなく、本の隙間、などにも置かれている。


 その中で一番目を引くのはやはり、棚の大部分を占める雑貨たちだろう。

 クマやうさぎなどの動物のぬいぐるみ、女の子が喜びそうな柔らかな肌のお人形、男の子たちには布製の車や飛行機などもある。

 綺麗な刺繍が施されたタペストリーは棚の裏の壁に飾られているし、刺繍はハンカチにもされているようだ。

 ネックレス、ブレスレット、アンクレットに髪飾りなどのアクセサリー類も豊富にある。

 マフラー、手袋などの日常使いできる雑貨も多い。


「うん。このブレスレットはいい出来だ。そうだ、あの子にあげようか」


 女性はくつくつと笑って、そのブレスレットを取った。

 そう、女性は、ハンドメイド作家として日々を過ごしているのだ。

 昔からこの田舎の家に住んでいた彼女は、どこか遠くに働きに行く意義を感じていなかった。

 彼女の夫は当たりを取り巻く田んぼや畑で農家として働いていたから、お金には困らなかった。

 早くに夫が亡くなった後、女性はその田んぼを管理できる気がしなかった。

 そのため、貸し出しという形でほかの若い農家につかってもらった。


 しかし、そうすると彼女は多くのお金を稼ぐ手立てを失ってしまう。

 困っていたところに、彼女の娘がハンドメイド作家の道を示してくれたのだ。


『お母さん、昔からいろいろなものを作ってくれたじゃない? それを仕事にしたらどうかな。家でもできるし、私が販売方法を考えることもできるよ。私は専業主婦ですし』


 すました顔で笑う娘に頼もしさを覚えたのは、いつだっただろうか。


 その声があってから、女性はずっとハンドメイド雑貨を作ってきた。

 先ほど挙げたようなものだけではなく、置物や絵画などにも挑戦した。


 その中でも一番彼女が得意とするのは、編み物だった。

 その編み物たちを、娘や息子だけではなく、彼らの娘や息子、つまり孫たちにあげることもしばしばだ。

 そして、彼女の子や孫の中で一番彼女の編み物を好いてくれている人。

 それは、中学生に成長した少女、羽夜だった。