自認オラオラ系男子は漢のなかの漢に認められる

 カウンターの向こう側、俺は今日も開店準備をそつなくこなす。そこにいつもより圧のかかった気配を滲ませ、店長がやって来た。

「優我、下準備は基本中の基本。単にこなせばいいのではない、神経を研ぎ澄ませ隅々までチェックを怠るな」

「はい」

 店長がこう言うときは、何か見落としがあったときだ。それを直接言わず俺に気づかせようとする。

 店長がひととおりカウンター内を見渡して去るのを、影に隠れてうかがっているやつがいた。まぁ俺の視界にはばっちり入っていたんだがな。

「じゃあ、今日もよろしく」

「はい!」

 店長がスタッフひとりひとりに声をかけていく。俺の後に声をかけられ人一倍元気よく返事をした後輩が店長が去るのを見届けてこちらに駆けてきた。

「優我さん、今日のチェックも無事通りましたね。でも思うんすけど、毎回あんなに確認する必要あるんすかね。てか、店長って優我さんにだけ厳しくないですか?」

 息継ぎもなしでよくそんな喋れるなと思いながら俺は思ったことを思ったとおりに返す。

「俺は完璧人間じゃないからチェックしてもらってありがたいし、それに店長のことは優しい人だと思ってるよ」

「ぶふぉっ」

 俺が言葉を発するとどこからか思いっきり吹き出す音がした。

「ふーん……そうなんすね〜まぁいいや、優我さんって変わってるっすね。よく言われません?」

「……まぁ」

 よく言われるっていうか、言われるほどの関係性にあたる存在が思い浮かばないのだが、これは置いておこう。

 後輩が自分の持ち場へ戻っていく。なんだかその後ろ姿が興味を失っておもちゃを放り投げる子猿のように見えて俺はなんだか悲しくなった。なんでだ。

 後輩がいた気配をしばらく一点に見つめていると、カウンター越しに新たな気配を感じた。いや、正確にはさっきから薄々感じていた塊。まさかこいつが話しかけてくるとは思わなかった。それなのに、

「レモンジュース」

「……はちみつ多めで作りましょうか? 喉にいいですよ」

「お、気が利くじゃん」

 俺はせっせとジュース作りに取り掛かる。なんで今更話しかけてきた? まぁ俺店員だし、レモンジュースはこいつのルーティーンだし仕方ないか。

 心を落ち着けるように自分を納得させ、レモンを搾る。俺もさっき言葉を搾り出せたからOKにしよう。そんなことを思いながらフレッシュな気持ちで完成した一杯をやつに差し出す。そのまま受け取り完了したらさよならだ。そう、それが客と店員の本来の距離でありディスタンス。何言ってんだ俺。

「どうぞ」

「どうも」

 客は受け取り、俺は作業に戻る。はずだったのに、

「なぁ」

 翻しかけた動きが止まる。客に声をかけられ店員は向き直る。

「はい」

「あんたやっぱおもしれぇな」

 天然の蜂蜜のように幾重にも重なった花の香をまとわせ、花畑を用意する目の前の漢。どんな手を使ったのだろうか、こいつの言葉に吸い寄せられる。

「優我」

 触れられる距離。

「前髪、切ったんだな」

 流れるように耳へとかかる指先に俺の感情はまんまとくすぐられる。

 切ってよかった。筋くれ立った手、それでも優しい手つきに俺は自ら鼻を擦りつける。またこうやって触れてくれることが嬉しくて。

 鼻腔さえくすぐるのはクチナシの香り。

 俺が使ったのは市販の蜂蜜なんだがな。