自認オラオラ系男子は漢のなかの漢に認められる

 ステージ上、照明の調整が入り目下に照らされる。俺はというと、咄嗟に動いたはいいが目の前のこの男を押し倒してしまっていた。いやまさかあんな重いアンプがずり落ちてくるなんて誰が思うだろうか。足元を見る、床に図体を打ち付けたアンプは見た感じは何のダメージも受けていないように思う。しかし、窪んだ板間だけがその衝撃を物語っていた。

「あんた……」

「怪我がなくて良かった」

 そっと男の上から起き上がり、すっくと立ち上がった俺はこの事態を店長に報告すべく動き出す。とりあえず一度この場を立ち去ろうと後ろを向いたそのとき、

 ガバっ!!

「はっ?」

 何かに背後を取られ、勢いのまま包み込まれた。熱が伝わる。先ほどとは違い、ゼロ距離で感じる男の憧憬。無遠慮にぎゅっと腕に力を入れられる。近いのに、その近さなら放出するはずのない質量の想いを一身に受けていた。

「えっな、なに?」

 俺の声は震えている。そんなのお構いなしに唐突に放たれた。言葉。

「あんたすげぇかっこいいな!」

 俺は放たれていない。

 それからというもの、この男は俺に付いてくるようになった。

 西鷹(にしたか)瑞帆(みずほ)、これが男の名前らしい。らしいというのは本人から聞いたわけではないからだ。ある日、俺がいつものように教室で本を読んでいたらなんだか廊下が騒がしかった。しばらくすると、ガララっとドアを開け堂々と侵入してきたのはうちの制服を着たこの男だったのだ。

 芸術クラスに所属しているらしい西鷹は俺が知らないだけで学校ではけっこう有名人。クラスのある棟が離れていたので俺の耳に届くまで時間がかかった。いや、俺に噂を流してくれるほどの距離にいる人間が学校にいなかっただけか。

 西鷹は昼休みになると現れる。必ずピンクのハンカチに包まれた可愛らしい弁当を持って。

「なぁ、優我」

「……」

「えぇー返事なし?」

 問答無用で空き教室に連れて行かれ、目の前で勝手に弁当を広げる西鷹に呆れながら、俺は今朝焼いた鮭が色を足すミニマルな弁当に手を付けた。

「なんだよ」

「ははっ応えてくれた」

 前髪の間からちらつく端正な顔が、ふにゃりと目尻を落として柔性を作り出す。まるで緑風に乗ってラベンダーが香るように笑う。

「答えないと、しつこく話しかけてくるだろ」

 俺は視線を逸らし、停滞する風が通り過ぎるのを待った。そんな俺に伸びてくる筋くれ立った手、それは意志を持って俺の前髪を微細に掠めた。

 静かに肩を跳ねさせた俺に西鷹は続ける。

「なんでメガネしてんの?」

「……べつに、いいだろ」

「ふーん、ねぇこっち見てよ」

 なんで見なきゃいけねぇんだよ、という抗議の意を込めて目を皿にする。

「前髪分けたほうが似合うよ、瞳(め)綺麗だし」

 西鷹の指が時折額に触れるのを鮭をメインディッシュにすることで誤魔化した。

「やめろよ、乱れるだろ」

 ふいっと顔を背けると、西鷹は少しだけ風に煽られながら手を引っ込める。

「前髪、そんな大事かよ」

「ああ大事だよ、超大事!」

「女子かよ」

「はぁぁぁあ゛?!」

 大口開けて鮭を頬張り、その勢いで弁当をひっつかんで教室を後にする。

 俺は青嵐によって取り乱されるのであった。