自認オラオラ系男子は漢のなかの漢に認められる

 なんだよ、あれ。俺そんな女々しい顔してたか?

「チッ」

 手元にあった布巾でむしゃくしゃしながら拭き掃除をする。これから開店だってのに、嫌な始まり。

 そんな俺をよそに時間は進み客が一人、また一人と店のドアを開ける。

「ネグローニください」

 苦いな、いまの俺みたいだ。飲んだことないけど。

◇◇◇

 ステージは出演者が入れ替わるたび熱を上げて進行していく。

 こういう店で働いてて思うが、出演者によって明らかに盛り上がりが違う。有名だからとかは関係ない。みんな平等に自分たちの根っこにある魂を見せつけたやつがこの場を制す。俺はそれが好きだ。自分も土俵に立てるかもしれないと思わせてくれる。

 休憩時間に入り、ステージ上に機材を運び入れていた俺のもとにあいつがやって来た。

 やつはちらりと俺を見やると何も言うことなくセッティングを始める。

 へぇ、こいつフロントじゃねぇんだ。バンドの顔となることの多いヴォーカル。こいつもそうなのかと勝手に思っていた。華があるしな、って俺何言ってんだ。

「なに?」

 つい癖で観察してしまっていた俺にやつが眉頭を内側に寄せかけ、怪訝な表情をのぞかせてこちらをうかがっていた。その佇まいはすぐ隣にあるアンプの影にも勝る重厚さで、いまにも噛みついてきそうな危うさを孕んでいた。

「べつに」

 俺は関わらないのが吉だと思い、咄嗟に顔を背ける。ひととおり機材の搬入を終えるとさっさとその場を去ろうと体を翻す。しかし、そのとき俺は感じた。いつもと違う微妙なズレを。目の前にはステージの袖、後ろにはやつの視線。心の機微、そう言ってしまえば簡単かもしれない。でも何か不穏な気配を感じ、一度だけ振り返る。流れる目線の先、その歪んだ楽譜の第4線と第5線の間にそれを見留めた。

「はっ……危ない!」

「え?」

 男はしゃがみ込み、コードを繋げる。肩からかけたえんじ色のベースに気を取られているやつへ、俺は咄嗟に体ごと突っ込んでいた。

 重く鈍い音を立てて静まり返る店内。空っぽの紫雲が徐々に晴れていく。俺とやつ意外誰もいない。細い線でも役に立つことがあるのだなと、ステージ上にうつ伏せ、下手に脱ぎ捨てたキッチン手袋のような俺を天井から俯瞰で見下ろす俺は思っていた。それだけでも非常に気まずい状態なのだが、さらに当の本人は上がりかけた体温のうえ、冷たいシルバーをぎゅっと掴む。それに力を入れてのそりと起き上がると、同時に今度こそ眉頭を思いっきり両側から寄せて歪んだ表情で俺を見つめる男と目が合った。そこから伝わる感情は怪訝というよりは心配、俺に向けられているなんてそのときは果皮の削り残しほども思わなかった。