自認オラオラ系男子は漢のなかの漢に認められる

 商店街のなかぼんやりとネオンが光る入り口がひとつ。看板には19:00開演の文字、本日の出演者一覧が貼り出されていた。必要以上に主張しないシンプルな羅列に初めて見る名前があった。

 ライブハウス“RUGGED(ラギッド)”

 俺はそれらをちらりと横目で流し、見せ前を掃除する。夜でも多少目立つそこを隅々まで掃いて整えれば、気持ちが上がる。客のためというより俺自身がやりたいからやってる。

「優我(ゆうが)、そろそろ開店するぞ」

「あ、はい」

 店長に言われ後ろにひとつ結びしていた髪をハーフアップに結び直す。

 店内は入ってすぐ右側にバーカウンターがある。ソフトドリンクも置いてあるが、酒の名前を覚えるにはうってつけの場所。嫌でも頭に入る。

「今日はよろしくお願いします」

「ああ、瑞帆くん。よろしくね、新曲楽しみにしてるよ」

 グラスの準備をしていると、後ろから声がした。今日出演するであろうバンドが店長に挨拶しに来た。出番前にわざわざ下にまで降りてきてきっちりしてるなーなんて思いながら俺はしっかりとグラスを拭き上げる。

 うん、今日も曇りなく準備できた。完璧。

「なぁ」

 いつもよりグラスの量多いな

「なぁって」

 ん? 後ろから再び声が聞こえた。今度はもっと近い。俺は声のした方をゆっくりと振り返る。

 そこには暗がりでも分かる端正な顔立ち。耳周りにはシルバーのピアスと黒い宝石(いし)が施されたジャラジャラしたものがついている。ピアス、何個ついてんだよ。

「えと、俺ですか?」

「あんた以外に誰がいる?」

 なんだこいつ、初対面で失礼な物言いだな。

「何か?」

 一歩こちらに近づく黒髪短髪の男、前髪から一束おでこにこぼれ落ちた。その瞬間ステージの照明が紫色に変えられ男の右顔側面が妖しく輝く。

 なんか、色っぽい……って、俺何言ってんだ。

「何か飲み物もらいたいんだけど」

 こいつ出番前にアルコール入れる気かよ。いかにも酒に強そうな男に尋ねる。

「ああ、何にします?」

「レモンジュース」

「え?」

「だから、レモンジュース」

 ジュース……確かにうちにはレモンジュースというメニューがあるけど、レモンサワーもあるよ?

「えと、レモンサワーじゃなくて?」

「俺、飲めねぇし」

「あ、そ……うなんですね」

 意外。まぁそういう人もいるか。うちに来る客はだいたい酒を頼む。飲みながらバンドの演奏を聴くのが醍醐味みたいなものだからだ。

 俺はレモンジュースを作りにカウンターの中に入る。しばらくして無事に香り豊かなフレッシュジュースを作り上げた。

「どうぞ」

「あぁ、どうも」

 男はそれを受け取りにカウンターの方へやって来た。近付くとさらに端正で厳つい雰囲気が顕になる。

 うお、男前。

 俺はそれを長い前髪の隙間から覗き見ると、グラスを差し出す。男がグラスを受け取りそのまま去っていくのかと思ったそのとき、

「なぁ、あんた……もしかして」

 引っ込めようとした俺の腕をぐんっと掴んだ。

 は? なに。男の顔が勢いのまま目の前に迫る。そして口から出た言葉。

「俺に惚れた?」

「は?」

 こいついまなんて言った? 俺がこいつを? なんで。

 男はにやりと口元だけで笑い俺に見せつけるようにレモンジュースを口に含む。

 そのまま男はふっと鼻に抜ける声を残し、カウンターを離れていったのである。