蛍の季節に、キミはまた会いに来る


「古川の席は、窓際の後ろから二番目だ」
「はい」

先生が指し示した先には、ぽつんと空席がふたつ並んでいた。

ひとつは、私の席。
そして、そのすぐ後ろにもうひとつ。
——あそこだ。

誰かに確認なんてしなくても分かる。
きっと、あの廊下にいた彼の席だ。

私は逃げるように鞄を胸に強く抱え込むと、誰の肩にも触れないよう体を小さく縮めながら、指定された席へと向かった。

机の横に鞄をかけ、浅く息を吐きながらそっと椅子に腰を下ろした、その瞬間——。

「古川さん、って言うんだね。よろしく」

突然、すぐ隣の席から明るい声が降ってきた。

びくりと跳ね上がる心臓。
それでも焦りが顔に出ないよう必死に殺して、私は小さく頭を下げた。

「……よろしくお願いします」

「俺、瀬戸(せと)キラ。わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「あ、ありがとうございます……」

一応、形だけの礼を返す。
けれど、きっと私から彼に何かを聞くことなんて絶対にない。

隣の席の男子は、光の加減で少し明るく見える髪に、ゆるく着崩した制服。
……さっき廊下ですれ違った彼と、どこか同種の匂いがする。

——関わらないほうがいい。

挨拶はした。
義理は果たした。
だから、それ以上踏み込む必要はない。

これから始まる新しい日々。
できるだけ誰とも“関わらずに”、ただ静かに時が過ぎるのを待つんだ。

……そう、心の中で固く誓った、はずだった。