蛍の季節に、キミはまた会いに来る


切れる息を整える間もなく、川辺に佇んでいた彼がゆっくりとこちらを振り返った。

辺りはもうすっかり薄暗い。
ぼんやりと浮かび上がる彼の顔が、今さらだけど、あの頃の小さな女の子の姿と重ね合わさっていく。

……うん。
たしかに面影がある。

そう思う私は、おかしいだろうか。
さっきまで確かに本人だということすら分からなくて、真実を知るまでは頭の中で一切一致しなかったというのに。

「そんなに焦って走ってこなくても、まだホタルが光るには時間があるぞ」

黒崎くんの声は、いつだって変わらず柔らかくて優しい。

「黒崎くん……あの……今さらかもしれないんだけど、その……っ」
「なに? 今さら思い出したって?」
「え……?」

私は思わず目を丸くして、眉を上げた。

「小さい頃に会ったあの『女の子』……俺だって、気づいたんだろ?」

どうして……黒崎くんがそれを知っているの?

「あの時は母さんに無理やり女っぽい髪型にされてただけだからな。俺はれっきとした男だから」

少しだけ誇らしそうに不貞腐れる彼の言い方に、私は思わずフッと微笑んでしまった。
私のその小さな笑みを見て、黒崎くんもホッとしたように口角を上げる。

「改めて……久しぶり、古川」

そう言って、黒崎くんが少し照れくさそうに右手を差し出してきた。
私も小さく頷きながら、差し出された彼の大きな手にゆっくりと自分の手を重ね、ぎゅっと握手を交わす。
彼の温もりと微笑みを感じたその瞬間——私の目の前を、ひとすじの淡い光がそっと横切った。

ひとつ。
またひとつ……。

まるで静かな夜空から星がこぼれ落ちてきたみたいに、淡い黄緑色の光が暗闇の中にぽつり、ぽつりと浮かび上がっていく。

ホタルだ。

小さくて、儚くて。
だけど、自分という存在を一生懸命主張するように、眩しく光っている。
指先で触れたら壊れてしまいそうなほど脆いのに、息を呑むほど美しい光。

「……多分もう、お前はあれが俺だったってことに気づかないんだろうなって思ってた」

風が静かに川面を揺らす中、黒崎くんは淡く輝くホタルを見つめながら、ぽつりと呟いた。