蛍の季節に、キミはまた会いに来る


「こんな格好だからねぇ、女の子だと思うのも不思議じゃないよ。だけど、この写真がどうかしたのかい?」

豊田さんの問いかけに、私はすぐには答えることができなかった。

原田さんじゃなかった。
私と一緒にホタルを見て、優しく笑いかけてくれたあの子は——黒崎くんだった。

私たち、あの頃に一度、ちゃんと出会っていたんだ。
そして……あのとき親切にしてくれたあのおじいさんは、豊田さんだったんだ!!

あの幼い日の約束を覚えているのは、私だけかもしれない。
それでも——やっぱり私、今すぐホタルを見に行かなくちゃ。

今から向かえば、きっとまだ間に合う。
黒崎くんと、あの夜に約束を交わした、あの思い出の川辺に!

「あ! ちょっと、聖菜ちゃん!?」

背後から届く豊田さんの驚いた声を背中で受け止めながら、私は靴を突っ掛けて夢中で家を飛び出した。

梅雨時期の湿気が、ジメジメと肌にまとわりつく。
額に浮き出た汗が、走り抜ける風に吹かれて冷たく冷やされていく。

走って、走って、どこまでも必死に走った。

突然激しく動かし始めた身体が悲鳴を上げ、喉の奥がヒリヒリと痛んで呼吸が苦しくなる。
それでも私は、乱れた空気を無理やり肺に押し込むようにして、ひたすら前だけを見つめて足を動かし続けた。

青々とした田んぼのあぜ道を駆け抜けると、そこには静かに流れる小さな川が見えてくる。
辿り着いた私は足をとめ、激しく上下する肩を押さえながら膝に手をついた。

昼間はどこにでもあるただの細い川なのに、夜の帳が下りると、この場所はまるで魔法がかかったかのように別世界へと姿を変える。

青草の匂いをたっぷり含んだ湿った風が頬を撫で、暗い川面は遠くの街灯の灯りを映してゆらゆらと妖しく揺れていた。

そして——その淡い暗がりの中に。

静かに佇む、黒崎くんの姿があった。