蛍の季節に、キミはまた会いに来る


土曜日。
気がつくと、私の足は吸い寄せられるように豊田さんの家へと向かっていた。

気分が酷く沈んで自分を見失いそうになると、どこからか温かい気配に呼ばれているような気がしてしまう。
それはきっと、豊田さんが纏う包み込むような優しさが、私をこの場所へと引き寄せてくれているからなのだと思う。

「あれ? 今日はホタルを見に行くんじゃなかったかい?」

玄関先で出会った豊田さんにそう尋ねられ、私はうまく答えられずに曖昧な苦笑いを浮かべた。
すると豊田さんは手に持っていた農作業の道具を玄関脇に腰を下ろすように置き、「まあ、入りなさい」と優しく招き入れてくれた。

時計の針は、夕方の5時過ぎを回ったところ。

日が長くなったこの季節、夜の帳(とばり)が下りるまでには、まだもう少し時間がある。
結局、ホタルの時間までのカウントダウンを気にしながらこの家に逃げ込んでいる自分が、なんだかとても格好悪くてバカみたいだ……。

豊田さんはいつものように慣れた手つきで温かいお茶を淹れてくれた。

「あ、そうそう。聖菜ちゃん、ちょっとこれを見てごらん」

そう言って奥から大事そうに抱えて持ってきたのは、一冊の古びたアルバムだった。
クリーム色の表紙は経年変化で少し擦れ、所々に小さなシミのようなものが付いている。

「この前押し入れを整理していたらね、喜美子さんたちの学生の頃の写真が出てきてね。今度聖菜ちゃんが来たら、絶対に見せてあげようと思って取っておいたんだよ」

豊田さんが膝の上で、そっとそのページをめくった。
そこに貼られていたのは、少し黄ばんだモノクロに近い古い写真。

きっと、お母さんが中学生くらいの頃の写真なのだろう。
若かりし頃のお母さんは、綺麗な三つ編みのおさげ髪にセーラー服姿で、少し照れくさそうにカメラに向かって笑っていた。

そして、そのすぐ隣で肩を並べて弾けるような笑顔を見せているのは——黒崎くんのお母さんだった。

二人とも、今よりずっと若くて幼いだけで、面影は全然変わっていなかった。

写真の中の二人は、まるで輝く未来しか存在しないみたいに、眩しいくらいの笑顔で寄り添っていた。