なぜ、こんな行動をとってしまったのだろう。
私はあれからしばらく学校に行くことができずにいて、気づけば豊田さんの家にやってきていた。
豊田さんの隣の家は、黒崎くんの家だというのに。
彼を傷つけて追い返してしまった手前、一番近づいちゃいけない場所のはずなのに、私はなぜこんなところに来てしまったのだろう。
……なんだか無性に、豊田さんの温もりに頼りたかったのかもしれない。
通された畳の部屋で、豊田さんに促されるまま静かに腰を下ろす。
香ばしいお茶を運んできてくれた豊田さんが、私の目の前にゆっくりと座った。
ふと目線をやると、仏壇には亡くなったおばあちゃんの遺影が飾られている。
優しい目元が、どことなく黒崎くんに似ている気がした。
「東京とは違って、ここは時間がゆっくり流れているだろ?」
お茶を一口すすりながら、私は小さく頷いた。
「田舎はいいよぉ。何もないけどねぇ。なんだか、人と人との距離が近いような気がしてね。……あ、だからって別に、東京が悪いって言ってるわけじゃないんだよ?」
焦ってすぐにフォローを入れる豊田さんの姿がどこか可愛らしくて、心が少しだけ緩んだ。
「喜美子さんもねぇ、昔なにか悩み事があると、よくウチに逃げ込んできてたからねぇ。ふふ、やっぱり親子だねぇ」
……お母さんも、豊田さんの家に?
まぁ、当時はここが『黒崎くんのお母さんの実家』だったわけだから、お母さんにとっては大好きな親友の家だ。
悩みがあるときに寄り添い合うのは当然かもしれない。
お母さんが親友の家に行くのと、私がこうして豊田さんの家に逃げ込んでくるのとでは、なんだか意味が違うような気もするけれど……。
それでも、お母さんと同じ場所で同じように温かいお茶を飲んでいる事実に、固く凍りついていた心がじんわりと解けていくのを感じていた。



