「ただの頭痛だから。すぐによくなるよ」
嘘を隠すために、不自然だと思われないよう必死に口角を上げて笑ってみせる。
だけど、私は昔から器用な生き方なんてできたためしがない。
取り繕ったハリボテの笑顔なんて、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
黒崎くんに、このボロボロな姿を見抜かれてしまう前に。
早くこのドアを閉めなくちゃ——。
「わざわざ来てくれて、ありがとう。……また学校でね。じゃあ」
せっかく授業を抜け出してまでお見舞いに来てくれた人に対して、どれだけ失礼で冷たい態度をとっているかなんて、痛いほど分かっていた。
だけど、こうやって心を鬼にして突き放さなきゃ、今すぐ彼の胸に飛び込んで泣き叫んでしまいそうだったから……。
バタンと閉めようとしたドアが、彼のつま先でガツンと受け止められ、途中で固く止まる。
「……なんか隠してるだろ」
「っ……!」
私は思わず目を見開いた。
「か、隠してなんかないよ……っ」
「俺の目を見ろよ。……お前、嘘つくとき絶対に目を逸らすだろ」
「…………」
痛いところを突かれ、返せる言葉を失って息が詰まる。
「何があったんだよ。言えよ」
彼からのまっすぐで温かい言葉。
それが怖くて、申し訳なくて、追い詰められた私の頭の中で、パンッと何かが弾け飛んだ。
「——黒崎くんには関係ないでしょ!? 何も知らないくせに、でしゃばらないでよ……っ!!」
玄関の静寂を切り裂くように叫んだ直後、私は自分の犯した過ちに血の気が引いた。
……私、なんてことを……言っちゃったんだろう……。
後悔先に立たず。
吐き出した言葉は、もう二度と元には戻らない。
ドアの隙間から見えた彼の顔には、怒りではなく、胸を刺されたような深く切ない傷のの色が浮かんでいた。
「……そうかよ。悪かったな、でしゃばって。……もう何もしないから。迷惑かけて、ごめん」
パタン、と無機質な音を立てて静かに閉まったドア。
たったひとり玄関に取り残された私の耳には、恐ろしいほどの静寂が押し寄せてきて、体の底から止めどない震えが込み上げてきた。
本当は、誰よりも彼に助けてほしかった。
本当は、彼とまっすぐ本音で向き合いたかった。
それなのに、怯えて、嘘をついて、自分を守るために一番大切で優しい人を傷つけてしまう。
私って……本当に最低だ……。



