蛍の季節に、キミはまた会いに来る


やっぱり、好きだ。
私、この人のことが……どうしようもないくらい、好きかもしれない。

一度は自分から投げ捨てようと固く心に誓ったはずの気持ちなのに。
一番会いたくて、一番会っちゃいけない、そんな絶望的なタイミングで目の前に現れるなんてずるい。

こんなに優しく笑いかけられたら、諦められるはずがないよ……。

「調子はどう?」
「……まだ、少しだけ頭が痛い、かな」

また、下手くそな嘘をついてしまう。
さっき鏡に映った生気のない惨めな顔なら、本当に風邪をひいているように見えるかもしれないけれど。

「そっか。無理すんなよ。学校はさ、体が楽になってから来ればいいんだし」
「心配してくれて、ありがとう……」

掠れた声でお礼を言った瞬間、頭の奥で、冷たい原田さんの言葉が響いた。

『黒崎くんが迷惑がってるのに気づかないとか、マジでヤバくない?』
『必死に気を引こうとしてるのが丸分かり』

……そう、か。
そうだよね。

黒崎くんはきっと、誰にだってこうやって真っ直ぐに優しいだけなんだ。
困っている人や、弱っている人を見捨てられない、ただそういう温かい人なだけ。

私だって、彼が気遣ってくれる『かわいそうな大勢のひとり』に過ぎない。
私だけが特別なんてこと、あるはずがないのに。

勘違いして、一人で浮かれて、一人で傷ついて。
私って、どうしてこんなにも愚かでバカなんだろう。

恋をして、勝手に期待して、勝手に絶望して……胸がちぎれそうなほど痛い。

「……そんでさ、お前なんかあった?」

不意に投げかけられた言葉に、ドクンと心臓が嫌な音を立てて波打った。

「ど、どうして……?」
「いや、キラがさ。『聖菜ちゃん、なんか変だった』って気にしてたから」

瀬戸くんが……?

「……誰かに、なんか嫌なことでもされて学校来れなくなったのか?」
「ま、まさか……! そんなの、全然違うよ」

またしても、自分を守るための虚しい嘘を重ねてしまう。

本当のことを言ったら、きっと彼は私を助けようとしてくれる。
でもそうなったら、原田さんたちの悪意はもっと膨らんで、最後には黒崎くんにまで迷惑がかかってしまう。

好きだからこそ、本当のことが言えない。
好きだからこそ、彼から遠ざからなきゃいけない。

胸の奥に溢れる「好き」という愛おしさと、自分を責める刃のような切なさが混ざり合って、息ができないほど苦しかった。