蛍の季節に、キミはまた会いに来る


突然閉めたことに怒ってしまったかと思ったけれど、ドア越しに聞こえた彼の声は、いつも通りの柔らかい口調だった。

ドアを開けるべきか、このまま閉ざしておくべきか。

どうしようと答えを出せずに考えあぐねていると、突然向こうから強くドアを開けられた。
ドアノブに手をかけたままだった私の体はそのまま引っ張られ、あたたかな外の空気の中へと弾き出されてしまう。
自分の居場所を一瞬で見失ったみたいになって、私は一気に挙動不審になってしまった。

「おはよ」

もうお昼になろうとしている時間だというのに、彼はいつもの調子で「おはよう」と挨拶してきた。
私はどう返したらいいのか分からず、ただ小さく頷くことしかできない。

「開けてって言ったのに、なんで開けてくんねぇんだよ」

軽く頬を膨らませて不満そうにする黒崎くん。

「まぁ、いきなり学校休んだ奴の家に押し寄せたら、誰だってビビるか」

そう言って苦笑しながら私に差し出してきたのは、パンパンに膨らんだコンビニの白い袋だった。

「……?」

首を傾げて中をそっと覗き込むと、そこには私がこの前本屋さんでチラッと見ていた最新のファッション雑誌や、たくさんのお菓子、そして冷たいジュースなどが入っていた。

「……これ」
「ずっと家にいるのも退屈で暇だろ? 古川がどんな雑誌好きなのかよく分かんなかったから、とりあえず一番売れてそうなやつにしてみた。……もう持ってたらごめんな」

もし持っていたとしても、持っているなんて言えるはずがなかった。
これが、彼の真っ直ぐな優しさそのものだから。

「あ……ありがと」

蚊の泣くような声で答えると、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。
けれど、それと同時に、まるで冷たい鎖で絞め上げられるように、胸がぎゅっときつく締め付けられる。

こんなに優しくされたら。
こんな風に、私だけを特別みたいに大切にされたら。

諦めようと決めたはずの心が、また解けていってしまう……。