蛍の季節に、キミはまた会いに来る


『2−3』

ドアの横に掲げられたプラスチックのプレートの前で、私は足を止めた。

「俺が先に入って声をかけるから、合図したら入ってこい」

そう言って先生が中に消えると、それまで漏れていた騒がしい話し声が、嘘みたいにいったん静まり返った。

けれど——次の瞬間。

「転校生だって」
「女子? 男子?」

『転校生』という単語ひとつで、教室の中に再び大きなざわめきが広がっていく。
好奇心と、勝手な期待が入り混じった声。

その波のようなざわめきが、私の胸の奥を強く、激しく揺さぶる。

ごくり、と乾いた唾を飲み込んだ。

——お願いだから、ここでは何も起こりませんように。

大丈夫。落ち着いて。
ここには、私の過去を知っている人なんてひとりもいない。

友達なんて、最初から作らなくていいんだから。
卒業までのあと二年間、ただ影のように一人で過ごせばいい。

恐怖でうっすら震えはじめた腕をもう片方の手で強く押さえつけながら、先生の合図を待つ。

「古川! 入ってこいー」

びくり、と肩が大きく跳ねた。

——行きたくない。

頭では分かっているのに、足が床に縫い付けられたみたいに動かない。

大丈夫、大丈夫、平気だから。
心の中で何度も唱えているのに、「そんなはずない」と体が叫んで、どうしても一歩を踏み出すことを拒んでくる。

「古川? どうしたー?」

痺れを切らした担任がガラガラとガラ戸を開け、ひょっこり顔を出して手招きした。

自分のタイミングで、息を整えてから入りたかった。
けれど、もう——それすら叶わない。