「内緒にしておこうと思ったけど……きっとお母さんには、全部お見通しだよね」
生前のお母さんは、私が隠そうとした本当の気持ちを、いつだって何でも見抜いていた。
天国へ行ってしまった今だって、きっと空の上から私の心の中を覗き込んで、ハラハラしながら心配しているに違いない。
「ごめんね、お母さん。今度こそ上手くやるつもりだったんだけど……やっぱり上手くいかないみたい。どうやったら上手に生きられるのかも、もう分かんないよ。……お母さんなら、こういうときどうする?」
静まり返った部屋の中に、カチカチと時計の秒針が刻む音だけが虚しく響く。
仏壇の前に問いかけたって、返事が返ってくるはずなんてないのに。
私って、どこまでも惨めでバカだ。
「これから先……もし本当に学校に行けなくなったらどうしよう。お父さんにも心配かけちゃうし……」
お父さんに感づかれて事態が大きくなってしまう前に、どうにかして自分の心に区切りをつけなきゃ——。
固く唇を噛み締め、ぎゅっと目を閉じたそのとき。
ピンポーン、と無機質な玄関のインターホンが鳴り響いた。
私はハッとして滲んできた涙を急いで拭うと、玄関へ向かった。
ドアを開ける前に、靴箱の上に置かれた姿見で自分の顔をチェックする。
目が赤くなっていないか確認したけれど、そこに映っていたのは生気の抜けた酷い顔をした自分だった。
ゆっくりとドアノブに手をかけ、そっと扉を開ける。
——そこに立っていた人物の姿を目にした瞬間、私は呼吸を忘れて息を呑み、反射的に勢いよくドアを閉めてしまった。
バンッ!と重い音を立てて閉まった扉の向こう側。
胸の奥が痛みを感じるほど、鼓動が暴れ出していく。
なんで……?
どうして、黒崎くんがうちにいるの……!?
今は平日の、それも4時限目の真っ最中のはずなのに。
「古川、開けて」
ドア越しに響いたのは、息を少し切らした黒崎くんの低い声だった。



