蛍の季節に、キミはまた会いに来る


黒崎くんは、相変わらずマイペースに登校してくる。

以前、瀬戸くんが「親友だからって毎日ベタベタ一緒にいるわけじゃない」と言っていたけれど、黒崎くんがいないからといって瀬戸くんが誰か他の人と無理に群れているわけでもない。
そういう互いの距離感を尊重し合える関係性に、二人間の揺るぎない深い友情を感じて羨ましくなった。

だけど、私にとって今の教室は、息を吸うことすら苦しい地獄そのものだった。

背中に突き刺さる、彼女たちの冷酷な監視の目。
私にだけは射殺すような鋭い視線を向けておきながら、他のクラスメイトに話しかけられた瞬間にフッと可憐な笑顔へと切り替える原田さん。

私の、一体何がいけないのだろう。

私はただ、純粋に黒崎くんのことが気になるだけ。
黒崎くんを想う気持ちは、彼女たちと何も変わらないはずなのに。

どうしてあの子たちの恋は許されて、私の気持ちだけが罪みたいに蔑まされなきゃいけないの……?

固く唇を噛み締めると、胸の奥底から制御不能な激しい感情の波が押し寄せてきた。
このまま教室にいたら、みんなの前で涙が溢れ出してしまう。

4時限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く直前、私は耐えきれずに教室を跳び出していた。

溢れ出る涙で視界が歪み、前すらまともに見えないまま廊下をがむしゃらに走る。
その途中、曲がり角で誰かと強くぶつかってしまった。

「えっ……? 聖菜ちゃん、そんな勢いでどこ行くの?」

ぶつかった相手——瀬戸くんの声が背後から追いかけてくる。
けれど私は止まることができず、声に聞こえないふりをしてただ必死に走り続けた。

「う〜ん、俺も授業サボっちゃおうかなぁ」

背後から、どこか呑気で優しい瀬戸くんの呟きが聞こえた気がしたけれど、振り返る余裕なんて私にはなかった。

頭の中を占め尽くすのは、たった一人の存在。

——黒崎くに、側にいてほしい。

封印したはずだった想いが、溢れて止まらない。

誰かを好きになること。
心から信じ合える友達をつくること。

過去に傷ついた私には、そんな当たり前の贅沢すら望む資格なんてないはずなのに……。