蛍の季節に、キミはまた会いに来る


「おはよー!ねぇ、ちょっといい?」

翌朝の教室。
登校したばかりの私に向かって、まるで親しい友人みたいに弾んだ声で話しかけてきた原田さんに、全身の毛が逆だった。

彼女の後ろには、いつもの取り巻きグループの3人が壁のように立ち塞がっている。

こうなる予感はしていた。
最悪の想像が、ただそのまま現実になっただけ。
覚悟はしていたつもりだったけれど、やっぱり膝の震えを止めることができない。

私は周りの生徒に気づかれないよう必死に何でもないふりを装いながら、彼女たちの後を静かについていった。

連れてこられたのは、屋上へと続く階段の踊り場。
放課後以外はめったに人が通らない、密室のような場所。

そこで立ち止まった彼女たちが、一斉に私の方へと振り返る。
まるで群がるハイエナに囲まれた、身動きの取れない弱い小動物になった気分だった。

「昨日さ、マリカが見たんだって」

なにを? と聞き返すまでもなく、彼女たちが何を目撃したのかは分かっていた。

「黒崎くんと、何をしてたの?」

淡々と、けれど刃物のように鋭いトーンで真衣さんが問い詰めてくる。

……答える必要なんて、本当はあるのだろうか。
休日に私が誰とどこで何をしていようが、それは私の自由だ。
理由を説明する義務もなければ、あなたたちに知られたくもない。

『関係ないでしょ』と跳ね返せるだけの強さがあればいいのに。
前の学校で過去の自分と一緒にその強さを失ってしまった私の体は、ただただ小さく縮こまっていくことしかできない。

「ねえ、答えなさいよ」

……あなたたちは、一体私からどんな答えを引き出したいの?

『見間違いだよ』って嘘をつく?
『たまたま途中で会って、少し話をしてただけだよ』って言い訳する?
それとも……『黒崎くんに誘われて、デートをしてた』って正直に話す……?

「あ、あれは……ただ、黒崎くんと一緒にいただけ、で……」

私の声は情けないほど小さく震え、階段の冷たい壁に虚しく吸い込まれていった。