「ごめんごめん、お待たせっ!」
目を閉じてゆっくり深呼吸をしていたそのとき、校門の向こうから瀬戸くんが大きく手を振りながら走ってきた。
学校指定の紺色のジャージ上下に、黒いリュックを背負っている。
私は「大丈夫です」と軽く頭を下げて返した。
「んじゃ、行こっか」
相変わらずの爽やかで少しチャラい笑顔。
この人懐っこい笑顔と親しみやすさは、きっと今までにもたくさんの女の子たちを『もしかして私に気があるのかな』と勘違いさせてきたのだろうな、と思う。
「清掃作業、本当は面倒くさかったんじゃない?」
ふと気になって尋ねてみると、彼は「全然!」と即答した。
「むしろ、ちょっと楽しみにしてたくらいだけど」
……不思議だ。
瀬戸くんのいいところは、変に緊張せずに、なぜだか肩の力を抜いて安心して話ができるところだ。
黒崎くんと一緒にいるときの、あの息が詰まるような緊迫感や、胸が勝手に跳ね上がる感覚とはまったく違う。
なんでだろう……。
瀬戸くんの言っていることの方が適当っぽく聞こえるし、誰に対しても同じフラットな対応だし、いつも機嫌が良いからどれが本音の彼なのかイマイチ掴めないのに。
けれど、彼と一緒にいても変に顔色を窺ったり、警戒して身構えたりしなくていい。
だからきっと、彼はみんなから愛されて友達が多いのだろうなと思う。
……だからと言って、油断は禁物だけれど。
「聖菜ちゃんってさぁ、ほんっといい子だねぇ」
歩きながら隣に並んだ彼が、両手の人差し指で私の腕をクイクイと楽しそうにつついてくる。
「転校してきて最初の学校行事がただの草むしりと掃除なんて、普通だったら嫌がるでしょ?」



