蛍の季節に、キミはまた会いに来る


どうして彼は、私の名前を——それもフルネームで知っているんだろう。

転校初日、まだ誰にも自己紹介なんてしていないのに。

頭の中が真っ白になる。
どういうこと?

……もしかして、教室へ来る前に先生が彼に教えたんだろうか。
そうだとしても、ただの転校生の名前なんて「ふーん」ってただ聞き流してくれればいいのに。

お願いだから、こんな静かな廊下の真ん中で、私の名前を大声で呼ばないでほしい。

……誰もいなくて、本当によかった。

胸をなでおろすけれど、心臓は早鐘を打っている。
こんな目立つ派手な男子と関わっているところを見られたら、それだけで私の『影の薄い学校生活』は崩れ去ってしまう。

目立たず、静かに、印象を薄く。
この学校で生き抜くために、一番大事なルールなんだから。

「黒崎(くろさき)。今日は素直に教室に入れ。……ちょうど転校生を紹介するところだ」

担任の先生は、派手な彼の遅刻を咎めるでもなく、どこか慣れたような穏やかなトーンで促した。

「いいって、俺は。そいつのこと、知ってるし」

知ってるって……何が?

頭の中で声が裏返る。
今日、この場所で初めて会ったはずなのに。
彼は一体、私の何を知っているというの?

「お前は……また適当なことを言って……」

先生が深く溜め息をつき、呆れたように首を振る。