蛍の季節に、キミはまた会いに来る


黒崎くんはそう言いながら、スマホを握る私の手をポンと押し戻した。
驚いて見上げた彼の表情に、怒りの色は一切ない。
ただ、どこまでも真摯で真っ直ぐな瞳が私を射抜いていた。

「俺さ……言いたいことがあるときは、ちゃんと直接会って話したいんだよね」

あまりにも真剣なトーンで告げられ、私は言葉を詰まらせて黙り込むことしかできない。

「古川、知ってる? 人に何かを伝えるときさ、メールやLINEの文字が一番怖いんだよ」

……どういう、こと?

「会って直接話せばさ、相手の表情とか声のトーンでどんな気持ちで言ってるかが分かるじゃん。でも文字だとさ、同じ言葉でも受け取り方次第でまったく違う意味になっちゃったり、相手の本当の気持ちが見えなくなったりするだろ?」
「…………」
「だから俺は、ちゃんと目の前で顔を見て話したい。……これは俺の我儘かもしれないけどさ、俺はこれからもお前と直接顔を合わせて話すつもり」

そう言うと、彼はまたふわりと柔らかく笑った。
放課後のグラウンドを駆け抜けていく、爽やかな夕風によく似合う笑顔。
ずるい。
そんな顔でまっすぐ見つめられたら、反論なんてできるわけがないじゃんか。

……ダメなのに。
こんな風に心を揺さぶられちゃ、絶対にダメなのに……。

「あ、でもLINEのIDは教えて」

急にトーンを変えて、彼は悪戯っぽくニッと口角を上げた。

「そしたら、次いつ会うかの約束がいつでもできるからさ」

——どうしてだろう。

ほんの少し前まで私を支配していたあの息が詰まるような不安や恐怖が、出会ったばかりの彼の言葉と笑顔によって、優しく解かれていく。

見た目やノリは、どこか少し軽そうに見える黒崎くん。
けれど、彼の口から紡がれる言葉や行動には、ブレない強さと温かい芯がある。

本当に……不思議で、眩しい人だ。