勢いよく彼の手を振り払ったけれど、パニックで上ずった私の語尾は情けなく小さく萎み、そのまま地面に落ちた。
「みんな、見てるし……っ」
ギュッと唇を強く噛み締め、私はもう彼の顔を見ることすらできなくなった。
たどり着いた駐輪場の前。
西の空が、ゆっくりと濃密な青紫色へと染まっていく時間帯。
どこか涼しげな静寂が漂う空間の中で、居心地の悪さに耐えかねた私の身体は、どんどん猫背になって丸まっていく。
「古川さ。……なんでそんなに周りの目ばっか気になるわけ?」
なんでって……。
あることないこと面白おかしく尾ひれをつけられて、一瞬で最悪な噂として広がっていくから。
あとから「それは嘘で、事実じゃない」って必死に訴えたところで、誰の耳にも届かない。
信じてももらえない。
……そうなる前に、原因になりそうな芽をすべて最初から摘み取るしかないじゃん。
だから人の目が誰よりも気になるし、あなたみたいなクラスの人気者とこれ以上一緒にいるわけにはいかないの。
たとえあなたがただの友達のつもりだとしても、周りの目にそう映らなければ、それは凶悪な噂になって瞬く間に拡散して、私は”また”居場所を奪われる。
あんな地獄みたいな思いをするのは、前の学校だけで十分だ。
私にはもう、逃げ込める場所なんてどこにも残っていないんだから。
「そんなにビクビク怯えて過ごしてたら、毎日楽しくないだろ」
……余計なお世話。
あなたには、何の関係もないこと。
「俺はさ、時間を大切にしたいから、その時したいと思ったことを後先考えずにしたいんだよな。人の目なんて、どうでもいいじゃん」
……それは、あなたが誰からも好かれる『人気者』だからできることなんだよ。
声にならない悲痛な叫びが、夕暮れの冷たい空気の中に虚しく消えていった。



