蛍の季節に、キミはまた会いに来る


ただ、私の目の前で黒崎くんが優しく笑っただけなのに……。

……私、やっぱりどこか変だ。
さっきだって、言う必要のない昔の話までペラペラと喋ってしまったし。
もっと気を引き締めないと、また取り返しのつかない大変なことになる。

そのとき、清掃作業の担当の先生が空き教室に入ってきて、少しざわついていた室内が一気に元の静けさを取り戻した。
清掃活動の細かいスケジュールが書かれたA4サイズの用紙が前から順番に回されてくる。
それに目を通していると、ふっと刺すような嫌な視線を肌に感じた。

用紙から目を離さず、端っこからチラリと視線を向けてみると——案の定、原田さんが私のことを冷たい目で睨みつけていた。

……原因は、きっと黒崎くん。

彼女は、間違いなく黒崎くんのことが好きなのだと思う。
だからこそ、彼がいるこの清掃作業にもわざわざ参加したのだろう。

本当に、彼らには気をつけなくちゃ……。


「古川さん」

話し合いが終わり、廊下へ出たところで不意に名前を呼ばれ、ドキリとして肩を揺らしながら振り返った。
そこに立っていたのは、原田さんだった。
放課後の教室から出てきた生徒たちが散り散りに解散していく中、私は手に持ったA4の用紙をギュッと強く握りしめ、ぎこちなく視線を落とした。

「古川さんってさ、なんか黒崎くんと仲良いみたいだね」
「…………」

無言で固まる私に対し、彼女はフッと口元だけで笑ってみせると、諭すようなトーンで言葉を重ねてきた。

「あ、でも勘違いしないでね? 黒崎くんってさ、転校生とか、この町に慣れてなさそうな可哀想な人には昔からすごく優しい人だから」
「……そ、そうなんだ」

『あなただから優しいわけじゃないよ』というあからさまな牽制(けんせい)の言葉に、私は口の端を引きつらせて、何とか愛想笑いを作るのが精一杯だった。