蛍の季節に、キミはまた会いに来る


あれは、まだ幼稚園くらいだった頃のこと。

夜の川岸で出逢った、私と同じくらいの年齢の女の子にそう言われた記憶がある。
私はお母さんと、その子は確か、自分のおじいちゃんと一緒に見に来ていたような気がする。

幼い頃の記憶はとてもあやふやだけれど、〝ホタル〟という言葉ひとつで、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるその子の笑顔が脳裏を掠めた。
短い髪をちょこんと二つ結びにしていた気がするけれど、どんな顔をしていたかまではどうしても思い出せない。

「聖菜ちゃんは、ホタル見たことある?」

隣の瀬戸くんに優しく尋ねられ、私は小さく息を呑んだ。

「あ……うん。あるよ。一度だけ……子どもの頃にね。ただ、それがどこだったのかまでは覚えてないんだけど」

答えるつもりなんてなかったのに、勝手に口から滑り出していった言葉たちに自分自身で戸惑い、膝の上で所在なさげに指先を弄んだ。
……わ、私ってば、何をこんなところでペラペラと喋っているんだろう。
私が子どもの頃にホタルを見たことがあるなんて話、ここにいる人たちにとっては何の価値もない情報なのに。
きっと誰一人として、興味なんて抱いていないはず……。

自分の余計な口数に自己嫌悪で黙り込んでしまった、そのとき。
私の斜め前の席に座っていた黒崎くんが、ゆっくりと振り返り、柔らかく口角を上げて私を見つめてきた。

「俺もさ。……思い出のホタルを守りたくて、この活動に参加したんだ」

——どくん。

胸の奥で、心臓が変な跳ね方をした。

あまりにも予想外だった。
普段の無愛想な顔からは想像もつかない黒崎くんの優しい微笑みに、脈打つ鼓動が一瞬で速度を増していくのが分かる。

……気のせい。
絶対に、ただの気のせいだ。

「俺だけじゃないよ。この町に住んでるやつらは多分みんな、あのホタルを守りたいと思ってんじゃないかな。……うちのじいちゃんも、そうだしさ」

——ドクンっ!

まただ。
静かな教室の中で、私にしか聞こえない激しい心音だけが、耳の奥でうるさく鳴り響いていた。