「えっと……転校生の……」
私と黒崎くんを交互に見下ろした彼女は、あからさまに白々しい顔で私に疑問の眼差しを向けてきた。
「……古川です」
私は短く答え、軽く頭を下げた。
必要以上の情報は絶対に与えない。
すると彼女は、これ見よがしな笑顔を浮かべると、「あ! 古川さん!」と顔の横で人差し指を立ててみせた。
「ごめんねぇ。私、人の名前覚えるのが本当に苦手でさ」
苦手も何も、最初から覚える気なんてサラサラありません、と顔全体に書かれている。
「私、原田真衣。よろしくね」
「……よろしく、お願いします」
私はもう一度、機械的に頭を下げた。
「ところでさ、なんで黒崎くんと古川さんが一緒にいたの?」
「そーそー! そこ、俺もめっちゃ聞きたいんだけど。めっちゃ気になるよなー、真衣ちゃん!」
瀬戸くんが、待ってましたとばかりに悪ノリして乗っかってくる。
……この男は。
少しは私の困惑した空気を読み取って、話題を変えてくれるくらいの気遣いはできないのだろうか。
まあ、出会って間もない転校生の察してちゃんモードなんて、読めるはずもないのだけれど。
とにかく、私と黒崎くんが会っていたのは、ただの親同士の都合で、深い意味なんて何も——。
言い訳を考えようとした、そのとき。
「どうしてとか、別に理由はいらなくね?」
黒崎くんの口から出た予想外の言葉に、私をはじめ、周りで聞き耳を立てていたほぼ全員が唖然として固まった。
静まり返る教室。
クラスメイトたちは、黒崎くんのその言葉に一体どんな意味が込められているのか、息を呑んで次の言葉を待っているのが痛いほど伝わってくる。
そんな緊張感など露知らず、黒崎くんは面倒くさそうに息を吐くと、事も無げに言い放った。
「ただ、夜道が危ねぇと思ったから送っただけだよ」



